yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

義経黄金伝説●第29回

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義経黄金伝説■第29回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
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第4章 一一八六年 足利の荘・御矢山(みさやま)

■8 一一八六年文治2年 平泉

 西行たち一行は、平泉に戻り、秀衡を訪ねている。
 西行の姿は乱れている。
「これは、どうなされた西行殿,まるで乞食(こつじき)かと間違う程の有様」
「申し訳ござりません。やはり、国境の足利の庄にて盗賊がおりました。砂金
は荷駄とも奪い去られております。その野党もどうやら頼朝が手の者らしい」
秀衡は、疑い深く西行の顔を覗いている。
西行ともある方が、おまけに弁慶殿もお供してその様か。して、その盗賊ど
もはいかかがいたしたか」
「荷駄ともに逃げおりました」
 秀衡は静かに西行の顔を見ている。やがてポツリと言った。
 「いやはや沙金よりも、西行様の命の方が大切じゃ。平泉の沙金はまだつき
ることはございますゆえ。しかし、西行殿、ご自慢の藤原秀郷流剣の腕はどう
なされた」
「いやいや、俺も年じゃ、自分の身を守るので精一杯でござった」
「そのものたちの風体は」
「はっきりとは覚えておりません」
「まあ、良い。探索方をだしましょう」
「が、あのあたりはすでに鎌倉殿の勢力範囲でございましょう」

「秀衡殿。身を割ってのお願いじゃ」
西行は秀衡に頭をさげている。
「無体なお願いとが存じ上げる」
「はてさて何を、私と西行殿の間で」
「うむ、では申し上げる、再度、東大寺への砂金、今一度お願いを申し上げ
る…」
秀衡はすこし考えている。
「ふむ、西行殿の願いであらば、よろしかろう」
 しばらくして、すべて理解しているように秀衡は言った。

 奥州藤原秀衡も、当然ながら、西行一行の荷駄隊の跡を、密かに物見の者に
つけさせている。
 黒田悪党は、、この平泉に入った瞬間から、不穏なる者供として後をつけて
いた。
 秀衡も、西行が言葉とうりに動くとは考えていない。
西行の真意を推し量っているのだ。

 百年の平和郷をつづかせなばならない、それが北国の帝王秀衡の宿命であり
つねに、中尊寺金色堂壇にあるにある初代、二代目の眼を感じている「この日
本成立以来の奥州のいくさ人の考え方」の規範は、「京都人を信じるな」
であった。
 たとえ、同族、であろうと、西行は京都人であり、東北人ではない。
 完全に信ずる事は永久にないのだ。

■一一八六年文治2年 奈良東大寺

 1ヶ月後、西行と十蔵は、何事もなかったように、奈良東大寺にある総勧
進職、重源(ちょうげん)の前に立っていた。
海上の道を進み、荷駄隊が黄金を届けていた。吉次の配下が行った。
秀衡は安全な海上の道をすすめたのだ。
大物浦(兵庫県尼崎)についた黄金は淀川、山崎、奈良山の川道を通じて東
大寺に届けられている。

 重源は西行を労い、感謝をあらわしている。
 重源は、西行が伊勢草庵に返った後、十蔵を別室に呼んでいる。

「何か変わったことはなかったか、十蔵どの」
「はい、先ほどの西行様のご報告の通りです」
 「ふう」
 重源は、じっと十蔵の顔をのぞき込む。
「十蔵殿、お主、ひとあたりしたな」
重源は、西行という人間に影響されたと言っているのだ。

「ひとあたりですと、何を言われます、重源上人様」
「私は、のう、結縁衆の方々の報せも、聞いておりますぞ」

重源は言葉を止めて、目の前にある茶碗をゆるゆるなぜている。
「よいか、十蔵殿、お主の体は、すでにお主のものではないのじゃ。よ
いか、お主の体と心は、闇法師になった瞬間から、東大寺がものですぞ。
それを忘れていだいては困りますのう」
「は…」
重蔵は青ざめている。小刻みに体にふるえがきた。
「ふふ」
重源は、ねずみをいたぶる猫のつもりか、十蔵の顔を覗き込んだ。
「まあ、よろしかろう。お疲れでございましょうな。さぞかし。ふふ、
ではお下がりなさい。西行殿の動きは、これからも逐一報告くだされ
よ。よろしいですかな。十蔵殿よ、ふふ」

「わ、わかりもうした」
 ほうほうの体で、十蔵はあわてて重源の前から消えた。
 内心の動揺は、重源に見透かされている。

「あれでよろしいのですかな、はたして、、」
 勧進を手助けする若き僧、栄西が障子のうしろから茶碗を手に、重源の前
にあらわれている。重源はゆっくりと、それに答えず茶を飲む。
「ふふう、相変わらずうまい茶じゃな。のう、栄西殿、良薬、良薬、いあや、
人が人にあてられるという事は、ご存じかな」
「重源様、はて、面妖な。人にあてられる事ですと。一体、それは」
「十蔵がことですよ。あやつ、西行殿という劇薬にあてられたかもしれません
な」
西行殿が劇薬。ははっ、重源様は、面白いことを言われる。西行殿を、我々
が結社に取り入れておいた方が、よかったですか」

 重源は少し考えていた。
「ふむ、いや、少し、それは遅すぎたかもしれませんのう、西行殿は、みづか
らの結社をおもちじゃわ。ふふ」
重源はにこりと微笑んでいる。
「いずれ、私が鎌倉にて、我らが結社の分派を、作り上げましょう」
栄西が上機嫌で、決意を新たにした。

「ほほ、それはよき考え。私も、宋の陳和景を鎌倉へいかしましょうぞ。それ
に運慶殿、快慶殿らも、この東大寺が仕事が終われば、鎌倉まで取りよこしま
す」
「ふふう、板東の要塞都市、鎌倉を我らが支配する。面白く楽しい、身震いい
たしますな」
「いずれ、西行殿は、奥州平泉をそのようにしようとしていたらしいが、西行
殿は少しあの平泉王国、いあや、奥州藤原家に入れ込み過ぎましたな。やは
り、西行殿はのう、桜の花が、、好きじゃからのう。ふふ、、」

西行殿は、やはり、散り際の見事さをお考えでございますな」
「さようよのう、西行殿は、所詮は、残念ながら、北面の武士あがりですのう
。我々のように、武士上がりでも、比叡の山や宋に留学にいき、選ばれた学僧
になった者ではありませんからのう」
「それも道理でございますな。それでは、重源様、私はまた宋へ行って参りま
すぞ」
「おお、今度お帰りになる時は、大仏殿は完成していましょう」
「それに、」
栄西は少し考えて、
「重源様。頼朝殿からも、金を出させねば仕方ありますまい」
「そうですな。頼朝殿も、我々の前で、砂金を差し出すという大見えを、切っ
てもらわくてはなりませんからのう」

重源、元の名は紀重定(きしげさだ)紀家は、古代貴族大伴家の血をひく技術
の家。家の歴史が違うのである。東大寺の二人の勧進僧は、お茶釜を前にゆっ
くりとほほえみを絶やさず、前にある湯気のたち込めるお茶を飲み干している。
(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
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