yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

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義経黄金伝説●第31回

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義経黄金伝説■第31回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
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第5章 1187年 押し寄せる戦雲

■8−3 1187年文治3年 京都  
 
それから一年、文治三年、七月、京都。
後白河法皇と関白、藤原兼実が話していた。鎌倉と、平泉に対する政略である。

「兼実、どうすべきか。鎌倉の頼朝、しきりに義経捕縛の院宣を寄越せと申し
てきておる。頼朝はこの院宣を平泉に送り、王国の内部崩壊を起こすつもりじ
ゃ。そしてその責任は朕、後白河におっかぶせるつもりじゃ。平泉の義経と秀
衡は恨みを俺に向けよう。が、どうじゃここは頼朝がこと聞くべきか」

「さようでございますなあ、法皇様。ここは頼朝殿を立て、義経殿捕縛の『院
宣』を出していただきましょう。そして、同時に、東大寺用途沙金を早く献納
せよとの教条書を出しましょうぞ」

「先に西行殿に、法皇様が申し付けたことも、確認いたしましょうほどに。
こちら側も、秀衡と、義経に一押し必要でしょう」

「それは名案かもしれぬな」

■8−5 1187年文治三年 平泉 

すでに、西行法師は、伊勢にもどり、しばらく時間がたった。

 平泉にある義経高館(たかだて)を夜、郎党が訪ねていた。
義経様、お館様(秀衡)がお呼びでございます」
「こんなに遅くにか」
「はい、何かお二人でお話ししたいご様子でございます」

 秀衡屋敷内で義経が秀衡に話しかける。秀衡は病床にある。
「秀衡様、お元気であられますか」
義経が挨拶をする。
「おお、義経殿か、よう来てくだされた。この秀衡があの世に召される前に、
義経殿にお渡ししておきたいものがあってのう。近うよってくだされ」
 秀衡は、自分の死期を感じている。

「これはこれは、何をお気の弱い事をおっしゃいます。秀衡様あっての義経
でございます。さてはて、一体この私に、何をくださると言われますのでしょ
うか」
「さて、これをごろうじろ」
 一片の絵図が、病床の秀衡から義経の手に渡される。

「こ、これは、御館(秀衡)様」
「見ておわかりのとおり、蝦夷の絵図じゃ。この絵図、祖父の代より伝わって
おる。いわば藤原家の秘宝じゃ」
蝦夷の一部はすでに平泉王国の勢力圏にふくまれている。
「これをいかにせよと」
少しばかり、は眼をつぶり、息をつぐ。

「よいか、義経殿。はずかしながら、、、よいか。我が息子たちが、義経殿を
襲うやもしれん。そのときは、この絵図を手にして逃げ延びてくだされ」
「が、しかし…。それは奥州藤原氏、平泉に対する裏切りではありますまい
か」

「この老人の言うことは、聞くものじゃ。老人といえば、西行殿を知っておろ
う。あの西行殿が、きっと義経殿を助けてくれるはずじゃ」
西行様が…」
西行殿とは、北面の武士、佐藤義清の頃より、我々平泉、奥州藤原とはすく
なからぬ縁であろう。それにのう、義経殿。残念ながら、後白河法皇様が、と
うとう貴公追捕の、院宣を出された」

「何でございますと。あの法皇様が、私を追捕する院宣を、、、」
 義経の顔色が変わっている。裏切られたか、この想いが義経をおそう。
義経殿、安心せられい。この平泉に、秀衡あるかぎり、そのような命令聞き
はせぬ。兼実様も非公式に、法皇様の意向を伝えに参ったのじゃ。あくまで、
その院宣は、頼朝を怒られないためのもの。それに義経殿、いよいよ我が軍
勢、整えまする」

「秀衡殿、本当に、我が兄者と、いよいよ、ことを構えるおつもりか」
「安心せられよ。我が軍団は鎌倉に引けはとりません。義経殿を中心に、奥州
平泉十七万騎、轡を並べれば」
「いよいよ、奥州と鎌倉が戦いか……」
おのが運命を呪う。義経に安住の地はあるのか。その想いが体をおもくする。
この秀衡様にいままでの恩をいかに返せばいいのか。
義経は病床の秀衡をじっと見守っていた。

(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
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