yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

義経黄金伝説●第35回

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義経黄金伝説■第35回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
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第5章 1187年 押し寄せる戦雲

■5  1187年文治3年 京都 

「磯禅尼殿、失礼いたす」
西行がつづいて、京都五条に住む磯禅尼(いそのぜんに)を訪ねていた。
「おお、これは西行様ではございませぬか。おひさしゅうございます」
「禅尼、和子をどうなされた」
「和子ですと、急になにをいわれます、どなたの和子でございますか」
「お隠しあるな、静殿と義経殿の和子じゃ」

「静ですと、そのような者、私の子供ではありません。何を申されますので
す。それに義経様の和子様、男の子ゆえに、すでに稲村ヶ崎で海中に投げ入れ
られてございます」白々と泣く真似をしている。
「禅尼殿、そなた、鎌倉の大江殿とは取引せなんだか」
西行は眼光鋭く、厳しく追及する。禅尼は思わず袖で顔を覆い隠す。
「何を恐れ多い、鎌倉の政庁長官と取引ですと」
が、じんわりと冷汗滲んでいる。
「禅尼殿、すべてわかっておるのじゃ。もうお隠しあるな。私も和子を悪いよ
うにはせぬ。せめて、静殿のお手に返してくれぬか」
 西行は急にやさしく言う。西行は昔の禅尼の晴れ姿を思い起こしふうと笑っ
た。
「といいましても、静の行方、ようとしてしれませぬ」
「静殿は、私と一緒ら平泉に向う。今は義経様と一緒のはずじゃ」
義経さまのところ、が、すでに、何人かの暗殺者が、義経殿が屋敷に」
「心配するな、東大寺の闇法師を、義経殿が元に遣わしてある。さて、禅尼
殿、私と一緒に来ていただこうか」
「いずこへ」
「いわずとしれたこと、鎌倉の、大江広元殿の所じゃ。和子を取り戻しにの
う」

■ 1187年文治3年 京都

「はてさてどうしたものか」
この時期最大の歌人藤原定家は悩んでいるのである。
藤原定家は特大寺家の親戚であり、西行は若かかりし頃、この家特大寺家の家
人であった。
紀州田仲庄の荘園は特大時家の預かり所であえる。
「そうやは、慈円さんとこに相談にまいりましょうか」
藤原定家はひとりごちた。

慈円(じえん)は関白藤原兼実の弟でもあり、いわゆる文学サロンの仲間であ
った。慈円は今、西行から頼まれている伊勢神宮あての歌集を清書している。
歌集は奥州に出かける前に仕上げていたが、この清書書きを慈円にたのんでい
た。
西行の「しきしま道」は、一歩、完成に近づいていた。

■ 1187年文治3年 鎌倉

「これはこれは、西行殿。鎌倉に庵など持つお考えを改められたか。これから
は鎌倉が日本の中心ぞ」
 数日後、鎌倉の大江屋敷に西行はいる。
 この時期、宿敵の文覚は鎌倉にいない。弟子の夢見も同じ行動をとっている。
「いやいや、私ももう年でございます。ただ広元殿だからこそ、お願いしたい
儀がございます」
 西行のへりくだった様子に、広元は、かえって不信の念を抱いた。
「はてさて、この私に一体何をせよと」
義経殿の和子、お渡しいただきたい」

「何を仰せられる。血迷われたか。静が生んだ和子は、すでに稲村ヵ崎に打ち
捨てられた」
 その答えに西行は、にやりとして、
「広元殿、このこと頼朝殿にもお隠しか。が、私の耳には入っており申す。よ
ろしいか、広元殿。私の後には山伏が聞き耳、知識糸を、日本全国に張り巡ら
されてござる。広元殿のこの子細、頼朝殿の耳に入れば、今は鎌倉政庁の長官
といえども、どうなるかわかりませんぞ。富士の裾野のこと、お忘れではござ
りますまい。頼朝殿の勘気に触れれば、その人物に用なくば、すぐ打ち捨てら
れましょう。このこと、唐の歴史に詳しい広元殿なら、おわかりのことでござ
いましょう」
西行の恐ろしさが広元の体の中に広がって行く。
 (ここは西行におれて、味方に加えるは一策か)
広元は、真っ青になり、おこりのようにぶるぶる震えた。広元は書状をしたた
めた。
「ええい、西行殿、和子を早々に連れていけ。預け先は、この書状に記してあ
る」
「ありがとうございます」
西行に笑みが浮かんでいる。
「が、よいか西行殿。この和子、決して世の中に出すではないぞ。頼朝殿の元
に、すでにこの日本は統一されたのじゃ」
 投げ捨てるように言う、大江広元
西行に逆に凄んでいるのだが、いかんせん迫力が違った。

■ 1187年文治3年 多賀城

 多賀城国府にある吉次屋敷では、京都から到着した西行と吉次が言い争って
いた。
「吉次殿、恩をお忘れか」
 顔を真っ赤にして、西行が喋っている。
「恩ですと、何をおっしゃいます」
「いや、お主が金商人として有名になれたのは、誰のお陰じゃと聞いておる」
 畳み掛けるように、西行は喚いた。が、吉次の答えは冷たいのだ。
「それは、私には備前のたたら師の息子として育ち、その関係から姫路へ、岡
山へそして、回船鋳物師の船に乗り、この多賀城にたどり着き、商売を始めた
からでございます」
「吉次殿、再度申し上げる。お主が、藤原秀衡様にお目もじできたのは、誰の
お陰じゃと聞いておる。また、平相国清盛に照会され、宋のあきうどと取引で
きたわ誰のおかげじゃ」
 西行の目には、怒りが込み上げてきている。
「それは西行様のお陰でございます」

「そうじゃろう。私が、京でお主を助けたこと、忘れたのではあるまいな。ま
してや、書状を持って、秀衡様に会いに行ったのを忘れたのではあるまい」
「……」
吉次は、具合の悪いことを思い出し、黙っている。
「一時期、京都の平泉第(平泉の大使館)の頭目となれたのは、誰のお陰だと
思っている。それが時代が変わりましただと。私は昔の金売り吉次ではござい
ませんだと。お前は備前あたりの鋳物師で終わったとしても、詮無いことだっ
たのだぞ。私がお前の出雲で覚えた、そのたたらの技術を知っていたからこ
そ、秀衡殿に推挙したのじゃ」

 西行の怒りは頂点に達している。二人は、お互いを無言で見つめあってい
る。とうとう吉次がおれた。
「わかりました、西行様。それで、この私に何を」
「よいか、平泉の義経殿を助けるのじゃ」
西行の息が荒い。
「えっ、義経様を……」驚きの表情が、吉次の顔に広がって行く。
(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
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