yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

■義経黄金伝説■第58回

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義経黄金伝説■第58回(60回完結予定) 
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第9章 1198年(建久9年) 鎌倉

■7 1198年(建久9年)鎌倉/大江広元屋敷


「ふう、危ういところであった、文覚が鬼一を処分してくれたとしては」
 広元は呟く。が、広元は疑心に捕らわれる。
 いかん、もし、、、
「よいか、至急に牢を見て参れ」と雑色に命ずる。
「義行殿、おられませぬ」
 雑色が顔色を変えて報告した。
「何と…、そうか、あの禅師めが」
 広元は、禅師の控え部屋にいく。
「禅師、お主、義行を逃がしたな」
声高かに叫ぶ広本に対して
禅師は、ゆっくりとお茶をたしなんでいる。
ふくいくたるお茶の香りが禅師のいる部屋にたちこめている。
「広元様、どうかお許しください。あの者、最初からこの世には存在せぬもの
です」
「禅師、お前、静と連絡をとっていたのか。静はまだ生きていると聞く。あ
の義行を静の元に走らせたのか」
 広元は、ある事にはたと気づく。苦笑しながら言う。
「そうか、禅師、お主、西行に惚れておったのか。それを見抜けなんだのは
、俺が不覚。西行が黄金である義行を逃しよったか。くくっ、まあ、良い。
いずれは、静のところに向かうであろう」
広元は憎々しげな表情で、禅師を見つめる。禅師は、まさか広元が静の居場
所を知っているとは、思っている。恐るべき情報能力を持つ男だった。広元
は付け加えた。
「よいか、禅師。もし何かことがあれば、お主もろとも滅ぼす。無論、京都
大原にいる静もじゃ」
 脅しの言葉であった。が、禅師も負けてはいない。
「が、広元様。お前様もこのままでは済みませぬぞ」
「何だと」
「頼朝様の暗殺を知っておられたこと、鎌倉腰越にて書状に認めてございま
す」
「何という書状を…、嘘じゃ」
「が、政子様は信じますまい。いや、本当のことをご存じでも、その書状を
利用し、京都から来た男であるあなたを鎌倉政権の座から引きずり落とすでし
ょう」
「むむっ、お前。この俺を裏切りおるか」
 広元は憤怒の形相で、禅師ににじり寄った。
「ふふっ、これでも禅師は、この源平の争いの仲を生き残ってきた者でござい
ます。裏の手、裏の手を考えておらねば、生き残ってはこられませぬ。そこは
私、禅師の方が広元様より、一枚も二枚も上手ということでございましょう」
 広元を見返す禅師のまなじりには力がこもっていた。おまけに義行は、禅師
の孫なのだ。今の今まで生きながらえて、この官僚あがりの田舎貴族と対峙
して、勝てなければどうしよう。経験の量が違うのだった。
「うむっ…」
 広元も押し黙ってしまう。ここは禅師を怒らせぬ方がよいかもしれぬ。所
詮は女だ。変に怒らせて、今までの広元の苦労を水泡に帰すこともあるまい。


「大江様、大江様はこの鎌倉殿の政庁を作り。歴史書に御名前が載りましょう。が
しかし、大江広元様ではなく、中原広元様にかも知れませんね」
「禅師、お前何を企むか」
「いや、お隠しめされるな。先年なくらられし西行様も、同じことをされました」

「‥‥」
西行様も、佐藤家の本筋ではございませんでした。佐藤家は源平の戦い、屋島

戦で、滅んでおります。それゆえ、西行様も佐藤家御本流として、後の歴史にのこ

られるでしょう。これは広元様も同じことをされる機会でございましょう」
「禅師、お前は、、」
「いや、皆まで申されますな。
大江様の御母君様は、大江家の出。母方さまの御本流をのってるおつもりではござ

いませんでしたか。中原の名前を隠し、大江の本流の方々をすべて死においやり、

大江広元の名前は、歴史にのこりましょうぞ。さすれば、名高き学者、大江匡房

曾孫としてはづかしき事無く明法博士の御名前を朝廷からいただけましょう。これ

でも禅師には、つてがございます」
大江はしばしの間、頭を垂れていた。が、ゆっくりと顔を禅師に向ける。
「、、で、禅師、そのお方とは、、」

禅師は、広元もまた、京都のためにからめとった。

「わかった禅師。このこと不問にしよう」
「では、義行様のことはいかが記録されます」
「事件とはかかわりあいのない雑色だということにしよう」
「それを聞いて安心いたしました
それでは、京都からこられる僧のことよろしくお願いいたします」
京都から栄西法然をはじめ、新しい教条をてに、鎌倉武士のために
僧侶が送られてくるのだ、その手配方を、大江広元に頼もうというのだ。
昔、平家の、赤かむろの束ね者でもあった、磯の禅師は、深く頭をさげた。
      
(続く)
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