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山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

ロボサムライ駆ける■第四章 剣闘士(4)

ロボサムライ駆ける■第四章 剣闘士(4)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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第四章 剣闘士



第四章 剣闘士   (4)
 主水が、ぼんやり地上リクライニングゾーンで休んでいると、あるものが目に飛び込んできた。土煙が上がっている。一体あれは……。
 八足歩行タイプロボットのクラルテが疾駆してくる。乗り手はいない。それが途方もないスピードで走っている。文字どうり爆走であった。
「危ないぞう」
「みんな、逃げろう」
 人々は口々に叫んでいた。
 主水の目は何かに気付く。
 進行方向に逃げ遅れた人間の子供がいる。体を強張らせている。その子の姿に主水は気付く。その子は道の真ん中で立ちすくんでいる。
「あれは…」
 高い階級に属しているらしく金のかかった服装をしている。日よけ傘がそばに落ちている。それを持っていた子供のお供のものどもは、我先に逃げてしまっている。
「ううん、何て奴らじゃ。主人をほおって逃げてしまうとは」
 主水は助けようと決意する。助けるにはリクライニングゾーンの結界である電磁ビームの中を突き切らねばなかぬ。
 主水の疑似皮膚がバチバチと音を立てていた。いままで経験したことのない痛みの感覚が、主水を襲った。
「待て、こやつ逃げるでない」
 見張りロボットが飛んで来る。主水はそのロボットを殴る。
「むぐう、何のこれしき」
 主水は意識を失いながら、電磁バリアを突き切っていた。
 痛みより、その子供を救おうとする意志のほうが強かったのだ。主水は子供のほうに走り出していた。
 背後から警備ロボットのレイガンの光条が追いかけて来る。
 目の前に子供が見えた。主水の体が飛び出す。眼前にクラルテの足が見えていた。主水は「クラルテ」の走る一瞬前に、体を投げ出し子供をかかえ横に転がる。
 クラルテは主水はの上を走り抜ける。地響きがした。クラルテの八足のうち二足が主水の体の上を走り抜ける。
 瞬間、火花が散る。
「くくう」
 数トンの重みが一瞬主水の上を通り過ぎたのだ。さすがの主水もこれは効いた。
「指圧よりすごいのう」
 負けず嫌いの性格である。子供は気をうしなっている。
 クラルテは主水を一度はねた後、急に止まっていた。後ろを振り返る。再び主水はと子供の方に探査アイを向けた。何かと間違えたのだろう。
 すでに狂っている頭脳は、主水を敵と勘違いしたようだ。
「わしはロボットじゃ、気付かぬか、このクラルテめ」
 が、クラルテはそんな主水の言葉を無視して、反動をつけて主水の方へまっすぐ向かってくる。
 主水は、立ち上がり、右手を握り締めて身構えた。勢いづいたクラルテの一足が、主水の方に蹴りかかろうとする。
 その一瞬、主水の握りこぶしがその一足を殴る。接合足の一番脆い部分だった。パワーとパワーがぶつかった。グキッといやな音がした。
 主水の体は右横に投げ飛ばされる。主水の右肩の蝶番が半分ねじまがった。が、クラルテの一足も折り曲がる。バランスを失ったクラルテは、ドウと地響きをあげて、そばに倒れる。
 主水は投げ飛ばされたところから、子供を目がけ走った。主水は左手で子供を抱え、その場から逃げ去る。クラルテの残り七足が跳ね回っている。
 警備のロボが刀でクラルテの頭脳部分を切っていた。
「大丈夫か」
 倒れている主水の方にやってきた男が言う。「お手柄だな」
 主水は安堵のため息をつく。
主水は、休息所に連れて行かれた。

 その夜休息所で寝ていた主水は、たたき起こされる。顔見知りの看守だった。
「おい、ここからでるのじゃ」
 看守が言った。
「一体、どこへ」
「しっ、お前をここから出してやろうというんだ」
 長い通路を看守に連れられて歩く。機械城から出た主水を、ロボ馬車が待っていた。看守は、きびすを返してすぐに消える。
「いかりの長介さんだね」
 立ち尽くす主水に、馬車のドアが開いた。中にいる男がいった。四十からみのにがりばしったいい男である。
「いえいえ、私はけっして怪しいものじゃありません。大黒屋昭八と申します。どうぞ内へお入りください」
「その大黒屋どのが」
「いえ、昼間のお礼でございます。いいですか、『いかりの』さんは死なれた。そう全ロボットデーターベースには打ち込まれているはずです。今夜から、手前どもの剣闘士、松前さんになつていただきます」
「剣闘士ですと」
「おいやなのでございますか」
 が、主水はうれしくはない。剣闘士の試合は人間に見せるためのロボットの潰しあいだ。「その件について検討したいといっても、許すあなたではありますまい」
「そういうことですな」
 大黒屋は主水のシャレに真面に答えた。
 馬車は、御用商人大黒屋の家にたどりつく。かなりの家作である。大黒屋富のほどが知れた。主水が昼間クラルテから助けたのは、御用商人大黒屋の子供だった。この商人大黒屋は、政府に顔がきくらしく、お陰でこの商人直属の剣闘士の身分にとりあげられたのだ。「松前さん、都市連合主催の剣闘士大会に出てみないか」
 ある日、大黒屋は急に話を投げかけてきた。大切な話を事もなげにである。
「長介、僕も応援するからね。がんばってね」 側に擦り寄ってきた、息子竜之介が頼もしげに言う。主水が助けた子供である。主水に懐いていた。
「竜之介もこう言っているんですよ。主水さん、ひとつお頼み申し上げます」
「大黒屋さん、その戦いによってあなたも利を得るわけですか」
「えっ、と申しますと…」
「賭けか何かあるんだろう」
「だんな、慧眼ですね。そのとおりです。だからお願いしたいのです」
(続く)
ロボサムライ駆ける■第四章 剣闘士(4)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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第四章 剣闘士