yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

ロボサムライ駆ける■第7回■

ロボサムライ駆ける■第7回■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 ●山田企画事務所動画yamadakikaku2009

思い出にふける二人のもとへ騒音が駆け込んできた。
 川舟に埠頭から、クレーンが懸かる。

「御膳(ごぜん)、御膳」
 クレーンの上をかける音が、本人よりさきにきた。

おまけに履いていた鉄ゲタが先に飛んで来た。主水の
頭にコチンと命中する。

「こらっ、鉄」
 鉄ゲタを避けられなかった主水は自分にも怒ってい
る。

「あらっ、これりゃあ、すみません。ごぜん、そんな
にのんびり釣りをしている時じゃありませんぜ」

 いなせな江戸時代の町人姿のその男は、人工汗を吹
き出していた。特殊手ぬぐいで汗を拭く。そして、絞
り上げた。船の床は水浸しだ。

「鉄、まあ、落ち着け。魚が逃げる」

「これが落ち着いていられますかってんだー。ラブ・
ミー・テンダー」

 と大慌てである。

「何事なのだ、鉄」

たたずまいを整えて、もんどは尋ねた。

「それがね、ごぜん、えっー…と…。あれ、いけねえ
、慌て過ぎて忘れちまった。ちょっと、まっておくん
なせえよ」

 この男、びゅんびゅんの鉄。性格を一言でいうと、
慌て者である。主水(もんど)のために働いている。いわゆる情
報収集者だ。考え込む鉄の眼に先刻から垂れている主
水の釣り糸が眼に入る。

「それより、ごぜん、引いてますぜ」

「何だと、それを早くいわんか」

 ところがこの魚がくせ者である。

 主水の竿をぐっとひっぱる。かなりの力だ。普通の
魚ではない。大物である。慌てて主水、


「おい、マリア、鉄、わしの体をもってくれ。水にひっ
ぱりこまれそうだ」

「魚を放しなさいませ。そのほうが簡単じゃございま
せん」

「そうでさあ、ごぜん、そのほうが早いや」

「な、何を言う。この竿は徳川公からいただいた由緒ある竿…

 と言ってる間に竿から勢いがすっと抜ける。

 今度は魚の方が飛び上がってくる。口を切っ先のようにと
がらせて、主水の体を狙ってきた。といってもキスを
求めているのではない。かみ砕こうというのだ。

「あぶない。ノーキッス」

 体を伏せる主水。その上を魚が飛び去る。

「えーっ、ありゃ、あの魚はきすじゃありませんぜ。でもごぜん
もすきがないなあ」

 その状態でも、ダシャレを忘れない鉄である。

 魚はまるでロケットだ。船を飛び出して再び水の中へ。
「あの魚、ひょっとして」

 主水が疑いの眼差しでいう。

「何だってんですかい」
 キョトンとして鉄。

「サイボーグ魚」マリアがつぶやいた。

 サイボーグ魚は、霊戦争後、出現した新しいタイプ
のロボット魚類だ。非常に頭がよく、攻撃性も抜群で
ある。各国とも攻撃兵器として開発しているのだ。

「そうだ、すると…、いかん。危ない」

 主水は両肩で二人を床へねじ伏せた。水が白いしぶ
きを上げる。一瞬の後、船の両舷から一斉に魚の大群
が飛び上がり、船を襲った。

スタスタスタと音を立てて、魚が何匹か体に突き刺さる。
残りは交差し、海中へ。二三匹、鉄の目の前に刺さる。

「うわっ」
 鉄は叫ぶ。

「大丈夫か、鉄」

「ちょっとかすったくらいでさあ。おめいら、交通信号
をまもらんかい」

 急に強気になった鉄が言う。

「マリア、ムラマサを取ってくれ」

 主水の愛剣ムラマサがすらりと引きぬかれる。太陽
をうけて、りゅうと光る。

「よし、次の攻撃だな」
 ムラマサを抜き放ち、構える。

 再び、魚が、今度は、船の前後から襲い掛かってき
た。

 瞬間、主水の刀が走った。人間の眼にもとまらない
。サイボーグ魚のなますが船のうえに山積みとなる。

主水の動きと魚の流れが交差し、すさまじい光と音と
があたりを覆った。

「さすがは、ごぜんだぜ」

 サイボーグ魚のなますをつつきながら鉄は言う。

「鉄、これをあてにして、一献、ロボット酒でも」

「主水、おいしそうなお話しですけれど、前をご覧に
なった方が」

 続いて、巨大な水泡が目の前に近づいてきている。

「ひょっとして…」

 主水の人工皮膚の顔色が変わっていた。

「何か、心当たりでもあるんですか」

「このような水泡に帰す企てをくわだてる者、これは
……」
 目玉が飛び出しそうである。

 その時、海面から十メートルはある、その巨大な
魚が浮かび上がる。それを見てのけ反る主水。
「うおっ」

「ごぜん、あっしはぎょっとしたねえ」
 小ぶりなシャレで応酬する二人。

 そいつは魚に見えたが、背鰭のところが開く。中か
ら、坊主頭で紺の作務着を着た三十がらみの男が出て
来て、腕組みをする。

「さすがは主水、サイ魚を切り刻んだか」
 男は無念そうに船上の主水を睨む。

 サイボーグ魚。略してサイ魚である。
「サイ魚法師、久しぶりだなあ。お前が絡んでいるの
か」
 主水がキッと男を睨んでいた。

「ふふん、主水、ほんの挨拶がわりだ」
 サイ魚法師は、頭をずるっと撫でて、主水を見返し
た。

「挨拶ありがたくちょうだいいたす。が、法師、それ
だけであらわれてきたのではあるまい」

 主水、ムラマサは構えたままだ。

「そうだ。これからの道行で、いずれ雌雄を決しなけ
ればならんからな。また、そこなお内儀にも挨拶がて
らだ。外国ロボットとはいえ、なかなか見目麗しい女
性ではないか」

 サイ魚法師は、こころなしか、うらやましそうな顔
をした。

「あら、どうもありがとうございます、サイ魚法師さ
んとやら」

 マリアがやんわり受け流した。

「このやろう、おべんちゃらをいいやがって。俺もい
いいたいじゃないか」

 鉄は着物の袖をまくりあげていた。どうやら興奮し
ている。

「あら、鉄さん、その言葉はどういう意味ですか」

「いや、姉さん、そう悪くとっちゃいけあせんぜ。た
んなるお世辞だい」

 鉄はマリアに睨まれ、真っ赤な顔をした。

「お世辞はよしてくれ、法師」

「あら、あなたなにをおっしゃるの。せっかく、サイ
魚法師さんが、あたくしを誉めてくれたんじゃありま
せんか」

「だまっておれ、これは男どうしの話しあいだ」
 ムッとする主水。

続く
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 ●山田企画事務所動画yamadakikaku2009