石の民「君は星星の船」 第31回 石の男ムリム女王アルナという『死せるものの船』補助機構が消滅し、石の棺の北の詩人が復活し、星の再生の歌を歌い始める。石の民が、石の壁に集積しはじめる。 2021年12月26日 | 石の民「君は星星の船」(1989年)
石の民「君は星星の船」 第31回
『死せるものの船』の上で争いが続く。
「石の男ムリム、そうはいかない」
「女王アルナ、ゆるせ」
光二の指輪の先から光が走った。
目の前にいた女王アルナが消えていた。
光二はアルナが最後に「石の男ムリム、あなた」と叫んだのを聞いたような気がした。
『死せるものの船』の補助機構である2人が消えたのだ。
光二が勝ったのだ。怪我の功名だ。
いままで、黙ってみていた石の民がどよめく。
「アルナが消えた」
が光二は泣き叫んでいる。
「ああ、ミニヨン、ミニヨンが消えちまった」
「アルクのおっさんよ、俺はミニヨンを消しちまった」
光二は叫び続ける。
「アルクのおっさん、ひどいことになっちまった。
光二は涙がとまらない。が、光二のからだもどんどん消えて行く。
「アルク、どうすれば」
光二はたずねる。が、アルクのからだは、もう半分になっている。しゃべれない。
『光二、はやく石の棺を開けろ』
アインの声だ。
『石の棺が問題なのだ』
「そ、そうだ、どこだ」
目指す棺は、石舞台のうえに飾られている。石の民が光二をとどめようとする。
光二は、聖砲をむけて相手を牽制する。
そこ石棺へ、すりよっていった。もう光二も立ちあがれなくなっていた。
くそう、力まかせに、石の棺を開く。急に光があふれた。中には男が眠っている。
「おい、おい、男だぜ」
光二は気が抜けたような感じがする。
聖なる棺に男が一人かよ。
光二はその男の体にさわろうとした。
一瞬、男の目がひらかれた。
光二の目とその男の目があった。なんて、むさいおっさんなんだ、光二は思った。
こいつが本当に世界を救えるのか。
「ときがみちたのか」
男は、そうひとりごちた。
光二は答えようがない。
「俺は何もしらん。するだけのことはした」
その男は北の詩人だった。
彼は光二の顔をにらんだ。
「なまいきそうな奴め、あまり、時代は変わっておらんな。こんな若造が活躍する時代なのか。いやはや。」北の詩人は溜め息をつく。そして機械神殿の折の遠い記録を呼び覚ましていく。
「私に歌えというのだな」
いやいや言っている。
「だれもあんたの歌声など聞きたくもない」光二がわけく。
が光二も、もうしゃべれない。光二が、なにかをいう前に、その男は中央の石舞台にたっていた。
「 このおっさんがこの船の、いやこの話の主人公ってわけか。、舞台だけはきれいに用意されているじゃなか」。
「ただ登場人物は誰ものこっちゃいないぜ」。光二の体ももう半分になっていた。
「俺は、最後まで見届けてやるぜ、ここまでして、死んじまうとは、俺も不運さ。
Vグループのやつらを、あの時殺しておくべきだった。特に、アキヨシと登をな。心残りだ」。
詩人を前に敬う様に、石の民はしりぞく。
「おっさん、はやく歌えよ。おれの体が残っているうちに。
しかし、あの恰好はなんだ、帽子に、なげいコートときたものだ」。
「俺の最後の見納めがあの姿かよ」。光二は急に有沙の顔を見たくなった。
「アリサ、最後はアネキの指輪でたすかったありがつよ」。
「でも俺はアネキの体を吹き飛ばしてしまった。許してくれよ。
でも。どうやらもうすぐ、アネキのそばへ、いけるさ」
「 ミニヨン、すまん、あんたのおとうさんは助けてやれなかった。ええい、詩人とやらめ、早く歌え」。光二は、この世界が偽りで、自分たちがなにか主人公ではなかった疑念が渦巻く。
北の詩人は必死で思い起こそうとする。
がなかなか思い出せない。あの時、機械神がなにか、そうだ。
はるかな昔、「機械神が支配する世界で」処理した「石の歌」が詩人の頭に蘇ってきた。
機械神殿の地下で処理機構が、詩人の頭に組み込んだ歌。
詩人の口からその言葉が、関をきったように、なだれでてきていた。
詩人の言葉が『死せるものの船』に溢れる。「君は星星の船、、、、」
『死せるものの船』が輝きを増す。
やがて、おおいなる光が船をつつんだ。
光二は言葉もなく、それをみている。「おっさんよ。最後にやったじゃないか。
でも遅いぜ。光二は自分のからだを見る。残っていない。
こころの中のアインがつぶやいていた
『やがて、時の海がみちて、新しき世界が 』
『死せるものの船』は大きく膨らみ、ばらばらにとびちった。
船の部品のひとつひとつが人間の体に変化する。
「石の民」だった。
青き大地、つまり亜空間で分離した船の「石の民」のからだは、吸い寄せられるように、
樹里の世界に落下していく。
いまや光二の意識は「石の民」と共にあった。
急に青い空間を突き抜けていた。落ちる。
そんな感覚が光二を襲った。見た事のある風景が光二の目に飛び込んできた。
樹里だ、石の壁だ。
樹里の里の人々も半分に消えかかった体で、「石の民」が落下してくるのをみていた。
祭司長マニはつぶやいた。
『時の海がみちて、 石の壁に書かれていたとうりだ』
落ちてきた石の民の体は石の壁に密着する。
まるでジグソーパズルのように、その位置が決まっているようだった。
やがて、「石の壁」は、総ての「石の民」で満ちていた。
機械基盤にICがつけられるがごとく。
祭司長マニは考える。
はるかな記憶。機械神が、星を石に集積し、、、
そうか『死せるものの船』とは機械神が作った、滅びた世界を復活させる「シセツノモノノフネ」だったのか、、
石の民 「君は星星の船」第31回