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源義経黄金伝説■第68回★1199年(建久10年)鎌倉大倉山に、伊豆からの春嵐がふきすさぶ山頂に鬼が二匹、己が思想に準じて舞い踊る。

 

2022年03月17日 | 源義経黄金伝説(2022年版)

YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第68回★1199年(建久10年)鎌倉大倉山に、伊豆からの春嵐がふきすさぶ山頂に鬼が二匹、己が思想に準じて舞い踊る。

源義経黄金伝説■第68回★

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第9章 1198年(建久9年) 鎌倉

■5 1199年(建久10年)鎌倉大倉山 



 鎌倉の街の背後にそびえる大倉山山腹に、びょうと風がふいている。



 鎌倉の周り北東西三方に山山がとりまき、南は海に開いている。鎌倉は自然

の要塞であった。大倉山山頂から頼朝が作りあがた要塞都市の姿がよく見え

る。文覚はだれにも手出しできぬように、この決闘場を選んでいた。



 伊豆からの春嵐がふきすさぶ山頂に鬼が二匹。



「鬼一方眼、今度が最後の勝負ぞ。いずれにしろ、お主らが丹毒で、頼朝様、もっ

ても7日だ。お主らを倒しておかねばのう。この鎌倉幕府が持たぬわい」

鬼一方眼も構えている。



「おおよ、その勝負、受けたぞ、文覚。俺も京都一条の鬼一法眼。あとくされ

ない勝負だ。これで引き下がったとあっては、俺の名折れよ」



二人の体に、伊豆からくる少し早い春風が、吹き巻いている。



人の気配のない大蔵山の山頂に、二人とも八角棒を手にして微動だにしない。



「それに鬼一、安心せよ。儂は西行殿と9年前に約束しておる。勝っても負け

ても、源義行殿の命は安全よ」

「それを聞いて安心した。お主も闇法師の端くれであったか。約束は守るの

か」

「当たり前よ。ましてや、西行殿の今際の際の言葉だ」

「いざや、まいる」



とどちらからともなく打ちかかっている。

激しい打撃音が、大倉山全体に響く。山に住む野生の動物たちが勢いで逃げ出してくる。



「よいか、鬼一。お前たち、山の民どもの住む所など、もうこの世には存在せ

ぬ」

激する文覚が声高に叫んでいた。

「頼朝ばらに、我々の王国など支配できるものか。いあや、支配させるもの

か」

鬼一方眼が、鋭い文覚の八角棒の一檄を受けて叫ぶ。



鬼一方眼の言う王国とは、京都大和王朝が成立しても、なお連綿と続いている、

前の王朝、葛城王朝の流れを汲む『山の民の王国』である。歴代の京都朝廷も

彼らの見えざる王国を認め、協力者としていたのだ。それを文覚は無くなると

言うのだ。



「よいか、頼朝様が、征夷大将軍となり、十年前に奥州平泉王国を滅ぼした

今、我々武家の世の中よ。日本は頼朝殿によって統一された。支配するのは

鎌倉将軍。また山々、山山林のすみずみまで、鎌倉から守護、地頭をつかわし、

網の目のように日本全土に支配を巡らせる。お前たち、山伏を始め、山の民の

住む所なぞないわ。義経が逃げた場所などもうなくなる」



「くそっ、ゆうな。文覚、それであるからこそ、お主ら倒さねばならぬ。お主

は鎌倉を代表する攻撃勢力。我々自由民のためにな」

「無駄よ。京都朝廷を頼朝殿がおさえれば、『山の民の王国』など認めるもの

か」

平清盛殿、西行法師殿、後白河法皇様。皆、我らが味方であったぞ」

「それも終わりぞ。義経殿も、もう日本には帰ってこれぬぞ」



文覚の言葉に鬼一はたじろく、

(なぜそれを知っている)

「貴様、なぜ、それを」



「ふふっ、金きんに逃れるところを、儂が、のがしてやったのだ。

鞍馬寺の宝、征夷代将軍、坂上田村麿呂公の刀と引き換えにな」



「くそ、これが最後の一撃…」

鬼一は、渾身の力を込めて、文覚に打ちかかっていた。



八角棒はぱしりと折れ、鬼一の棒が、文覚の頭蓋を、天頂を打ちすえている。



一瞬、時の流れがとまる。

二人の体は止まっている。

風も一瞬凪いだ。



急にゆるやかな太陽の光が、雲間からふたりの体を照らした。



折れた八角棒の先を、文覚は鬼一の胸板を貫いている。

 相打ちである。



 血のにおいがただよっている。

鬼一の方が致命傷となる。

足下に体液の流れが、大地をすこしづつ、赤黒く染めていく。



「くっつ文覚、どうやら、我々の時代は終わったのう」



苦しげに、鬼一は呻く。

血が口からしたたり落ちてくる。



 しばらくして文覚が告げる。



「鬼一、よい勝負だった。それに約束だけは守ってやろう」

「約束だと」

血みどろの鬼一方眼の疑問の顔が、文覚に向いた。



「源義行殿を、鎌倉から逃がすことじゃ」

相対する文覚の顔と体も、すでに血にまみれている。



「それは有り難い、文覚殿。その事、恩にきる。ぐう」



ひとこと発し、鬼一の体がゆっくりと大地に沈んでいく。

 血の気が失せていく鬼一の体に、文覚は両手で拝む。



「鬼一方眼殿のお仲間の方々、後はお願い申す」

 まわりの気配に対し、文覚は周りを見渡し大音声でさけぶ。



折れた八角棒を杖として、頭から血を流しながら、文覚は鬼一の体を残し

そこを去って行く。

文覚は山道で立ち止まり、振り向く。

目には血が流れ込んでいる。



「鬼一方眼殿、さらばだ」



 文覚の姿が消えた後、山伏の群れ、結縁衆や、印字打ちの群が現れていた。

 数人が鬼一方眼の遺骸を取り囲む。



 「後を追うか」一人が叫ぶ。

 「無駄だ、あのおとこには」



「刃の鬼聖」文覚の名前は、紀州にも響いている。

文覚は日本各地の山伏の生地で荒行をくり開けしていた。



「頭の最後の命令にしたがおう」

「それより、我々はな、、西行法師殿の伝説を、この世に広めねばなるまい

それが、われら、後に残りしものが役目ぞ」



鬼一方眼の義理の弟、淡海が、強くいう。

目じりが光っていた。



(続く20131026改訂



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