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山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

源義経黄金伝説■第58回 1190年(建久元年)春、桜の花の舞い落ちる時、 河内国葛城弘川寺 西行庵桜の枝を折、「準備は調いましたぞ。そこにおられる方々、出てこられよ」と西行は言う。

YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第58回 1190年(建久元年)春、桜の花の舞い落ちる時、 河内国葛城弘川寺 西行庵桜の枝を折、「準備は調いましたぞ。そこにおられる方々、出てこられよ」と西行は言う。
前書き

桜の枝をボきボキと折り、はなむけのように、枝を土に指し始めた。ひとわた

り枝を折り、草かげの方に向かって、話しかけた。

「準備は調いましたぞ。そこにおられる方々、出てこられよ。私が、西行だ。何の用かな」

音もなく、十人の聖たちが、草庵の前に立ち並んでいた。

 

源義経黄金伝説■第58回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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■ 1190年(建久元年) 河内国葛城弘川寺

葛城の弘川寺に西行はいる。 背後には葛城山脈が河内から紀州に南北に広がり

河内と奈良古京の道をふさいでいる。

 

庵の文机に向かい、外の風景を見ていた西行は、いにしえの友を思い起こして

いた。平泉を陰都にする企ては、昨年の源頼朝の「奥州成敗」により、ついえて

いた。おもむろにつぶやく。

 

「我が目的も、源頼朝殿の手によって潰えたわ。まあ、よい。源義経殿、またその和子、源善行殿も生きておられれば、あの沙金がきっと役に立つだろう」

西行は、崇徳上皇のため、平泉を陰都にしょうとした。また、奥州を仏教の平

和郷であり、歌道「しきしま道」の表現の場所にしょうとした。それが、鎌倉殿、源頼朝の手で費えたのである。

 

西行はぼんやりと裏山の方、葛城山を見つめている。季は春。ゆえに桜が満

開である。

 

「平泉の束稲山の桜も散ったか。俺の生涯という桜ものう……」

桜の花びらが散り、山全体が桃色にかすみのように包まれている。

「よい季節になったものだ」

 

西行はひとりごちながら、表へ出た。

何かの気配にきずいた西行は、あたりをすかしみる。

 

「ふふつ、おいでか?」と一人ごちる。 そして、枝ぶりのよい

桜の枝をボきボキと折り、はなむけのように、枝を土に指し始めた。ひとわた

り枝を折り、草かげの方に向かって、話しかけた。

 

「準備は調いましたぞ。そこにおられる方々、出てこられよ。私が、西行だ。何の用かな」

 

音もなく、十人の聖たちが、草庵の前に立ち並んでいた。

西行殿、どうぞ、我らに、秀衡殿が黄金のありか、お教えいただきたい」

「が、聖殿、残念だが俺らの道中、悪党どもに襲われ、黄金は、すべて奪い

去られてしもうた」

「ふつ、それは聞けませぬなあ。それに西行殿は、もう一つお宝をお持ちのは

ず」

 

「もう一つの宝とな。それは」西行の顔色が青ざめた。

「そうじゃな、秀衡殿が死の間際に書き残された書状。その中には奥州が隠し

金山の在りかすべて記していよう」

 

「よく、おわかりだな。が、その在りかの書状のありかを、お前様がたにお

教えする訳にはいかぬよ」

「だが、我らはそういう訳にもいかん」

「私も、今は亡き友、奥州藤原秀衡殿との約束がござる。お身たちに、その

行方を知らす訳にはいかぬでな」

 

西行、抜かせ」

聖の一人が急に切りかかって来た。

 

西行は、風のように避けた。唐突にその聖がどうと地面をはう。その聖の背に

は大きな桜の枝が1本、体を、突き抜けている。西行、修練の早業であった。

「まて、西行殿を手にかけることあいならぬ」片腕の男が、前に出て来てい

る。

「さすがは、西行殿。いや、昔の北面の武士、佐藤義清殿。お見事でござる」

西行は何かにきづく。

「その声は、はて、聞き覚えがある」 西行は、その聖の顔をのぞきこむ。

「さよう、私のこの左腕も御坊のことを覚えてござる」

「ふ、お前は太郎左か。あのおり、命を落としたと思うたが…」

 

いささか、西行は驚いた。足利の庄御矢山の事件のおりの、伊賀黒田庄

党の男である

「危ういところを、頼朝様の手の者に助けられたのじゃ。さあ、西行殿、ここ

まで言えば、我々が何用できたか、わからぬはずはありますまい」

「ふ、いずれにしても、頼朝殿は、東大寺へ黄金を差し出さねばのう。征夷大

将軍の箔が付かぬという訳か。いずれ、大江広元殿が入れ知恵か」

西行はあざ笑うように言い放った。

 

西行殿、そのようなことは、我らが知るところではない。はよう、黄金の場

所を」

「次郎左よ、黄金の書状などないわ」

「何を申される。確か、我々が荷駄の後を」

「ふふう、まんまと我らが手に乗ったか。黄金は義経殿とともに、いまはかの

国にな」

 

義経殿とともに。では、あの風聞は誠であったか。さらばしかたがない。西

行殿、お命ちょうだいする。これは弟、次郎左への手向けでもある」

「おお、よろしかろう。この西行にとって舞台がよかろう。頃は春。桜の花び

ら、よう舞いおるわ。のう、太郎左殿、人の命もはかないものよ。この桜の花

びらのようにな」

 

急に春風が、葛城の山から吹きおち、荒れる。

つられて桜の花片が、青い背景をうけて桃色に舞踊る。

 

「ぬかせ」 太郎左は、満身の力を込めて、右手で薙刀を振り下ろしていた。

が、目の前には、西行の姿がない。

「ふふ、いかに俺が七十の齢といえど、あなどるではないぞ。昔より鍛えてお

る」

恐るべき跳躍力である。飛び上がって剣先を避けたのだ。

「皆のものかかれ、西行の息の根を止めよ」

 

弘川寺を、恐ろしい殺戮の桜吹雪が襲った。

桜の花びらには血痕が。舞い降りる。

 

西行庵の地の上に、揺れ落ちる桜花びらは、徐々に血に染まり、朱色と桃色

がいりまじり妖艶な美しさを見せている。

「まてまて、やはり、お主たちには歯が立たぬのう」

大男が聖たちの後ろから前へ出てくる。西行は、その荒法師の顔を見る。お

互いににやりと笑う。

 

「やはりのう、黒幕はお主、文覚殿か」

「のう、西行殿。古い馴染みだ、最後の頼みだ。儂に黄金の行方、お教えくだ

さらぬか」

西行はそれに答えず、

 

「文覚殿、お主は頼朝殿のために働いていよう。なぜだ」

「まずはわしが、質問に答えてくれや。さすれば」

「お前は確か後白河法皇の命を受け、頼朝様の決起を促したはず。本来なら

ば、後白河法皇様の闇法師のはず、それが何ゆえに」

西行は不思議に思っていた。

文覚は、後白河法皇の命で頼朝の決起を促したのだ。

 

「俺はなあ、西行。頼朝様に惚れたのだ。それに東国武士の心行きにな。あ

の方々は新しき国を作ろうとなっておる。少なくとも京都の貴族共が、民より

搾取する国ではないはずだ。逆にお主に聞く。なぜ西行よ、秀衡殿のことを

そんなにまで、お主こそ、後白河法皇様のために、崇徳上皇のためにも、奥州

平泉を第二の京都にするために、働いていたのではなかったのか。それに、ふ

ん、しきしま道のためにも、、」

 

「ワシはなあ、文覚殿。奥州、東北の人々がお主と同じように好きになったの

だ。お主も知ってのとおり、平泉王国の方々は元々の日本人だ。京都王朝

の支配の及ばぬところで、生きてきた方々。もし、京都と平泉という言わ

ば二つの京都で、この国を支配すれば、もう少し国の人々が豊かに暮らせると

思うたのだよ」

文覚は納得した。

 

「ふふ、貴様とおれ。いや坊主二人が、同じように惚れた男と国のために戦う

のか」

文覚はにやりと笑う。

 

「それも面白いではないか、文覚殿。武士はのう、おのが信じるもののために

死ぬるのだ」

西行もすがすがしく笑う。

「それでは、最後の試合、参るか」文覚は八角棒を構えた。西行は両手を構え

ている。

八角棒は、かし棒のさきを鉄板で包み、表面に鉄びょうが打たれている。

西行、宋の国の秘術か」

 

「そうよ、面白い戦いになるかのう」

(続く)

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源義経黄金伝説■第57回★1189年 文治5年平泉王国の焼け跡を馬で見回る二人の姿があった。 源頼朝と大江広元である。西行に渡した銀作りの猫の像を発見する。

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源義経黄金伝説■第57回★1189年 文治5年平泉王国の焼け跡を馬で見回る二人の姿があった。 源頼朝大江広元である。西行に渡した銀作りの猫の像を発見する。
前書き
 
太陽の光を受けて、頼朝の眼をいる輝きが焼け跡にあった。

これは…。

頼朝は、その土を触ってみた。何かが土中から姿を現す。

それは、猛火にも拘わらず、溶け掛けた銀作りの猫の像だった。見覚えがあった。

 

「大殿様、その像は…」

 広元が不審な顔をしている頼朝に尋ねた。頼朝は3年前の、鎌倉での西行法師の顔と話を思い起こしていた。

 

西行め、こんなところに…、やはり」

 頼朝は悔しげに呟いている。

 

源義経黄金伝説■第57回★

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■ 1189年文治5年 平泉王国 

 

 平泉王国の焼け跡を馬で見回る二人の姿があった。

源頼朝大江広元である。

 

 文治五年(一一九六)八月二二日、頼朝の「奥州成敗」で、実質上日本統一がなったといえる。大和朝廷の成立後も奥州は異国であり、異国であり続けた。

 

 二人は、中尊寺のところに来ていた。この寺跡は焼け残っている。見上げる頼朝は、感動していた。

「おお、広元、この平泉王国の富、さすがというべきか」

「ははっ、聞きしに勝る都城でございます」

 

 西行がいった通りだと頼朝は考えていた。

平泉は仏教王国だった。

 

なにしろ、源頼朝は、伊豆に流されて以来、毎日毎日読経ばかりだったのである。心根に仏教教典が染み付いている。空で経文がいくらでもいえるのだ。

 奥州藤原氏に対するやっかみの心が、頼朝に擡げてきた。

 

(こやつら奥州藤原氏にだけは、負けたくない。私が日本の統一者だからだ。

私が日本一の武者の大将なのだ。それならば、私の町鎌倉にもこのような寺が必要だ。)

 

「このような寺を鎌倉に作るのじゃ。鎌倉が、都や平泉に劣ることあれば、われらが坂東武者、源氏の恥じぞ。この平泉におる職人共をすべて鎌倉に連れ帰り、寺を建てるのじゃ」

「心得ました。この平泉にある寺の縁起、すべて書き出し、我が手に提出致しますよう命じてございます」

 

 頼朝の願いどおり『鎌倉には、平泉の寺院を模倣した寺が建てられた』が、

それは平泉には及ばない。所詮は、平泉の寺院のコピーでしかないのだ。コピーは本物をこえることはできない。

 

 やがて、頼朝は、目下気になっていることを聞いた。

「泰衡が弟、忠衡、発見できぬか」

「いまだ発見できませぬ」広元は残念そうに答えた。

「ええい、忠衡がおらねば、黄金の秘密一切わからぬとは」

 

 古代東北の地、中でも気仙地方は、世界でも最大級の豊かな金鉱を有していた。今出山金山、氷上山の玉山金山、雪沢金山、馬越金山、世田米の蛭子館金山などである』

 

頼朝はいらついている。

(この国を攻めたは、実は奥州黄金を手に入れることぞ。この国の王には黄金が必要なのだ、あの京都を凋落するのは黄金が一番なのだ)

「国衡も見つからぬのか」

「いまだに姿が見えませぬ」

「ええい、国衡もいないとならば、奥州の金を手に入れたことにはならぬ。されば何のための奥州征伐ぞ」

 

怒りの目で、頼朝はあちこちを見回している。その時、何かがキラリと光り頼朝の目をいた。

「あれは…」

 頼朝が、小高い台地にある焼け跡に目を移した。あきらかに何ヵ月か前の焼け跡である。

 

二人は高館の跡まで馬を走らす。

 

「この場所が、義経殿が最期を遂げた場所でございます」

 

 広元が冷静に告げていた。

義経が死に場所か……よし、少しばかり見て行くとするか」

 その頼朝の目には、涙がにじんでいる。頼朝は馬を、その台地に乗り上げ、ゆっくりと馬から降りた。その場所から崖が北上川へと急に落ち込んでいて、東稲山も間近に見える。頼朝はその風景を見ながら思った。

 

「目の前のあの山が東稲山でございます。西行殿が愛でた桜山です」

 

義経、なぜ私の言うことを聞かなんだ。俺は武士の世を作ろうとしたのだ。それを後白河法皇などという京都の天狗に操られよって…。我が兄の心根、わからなんだか。やはり母親の血は争えぬか)

頼朝は母常盤の血を引いていた、やさしい、さびしげな義経の顔を思い浮かべていた。

(あのばか者めが…)

 

太陽の光を受けて、頼朝の眼をいる輝きが焼け跡にあった。

 

これは…。

 

頼朝は、その土を触ってみた。何かが土中から姿を現す。

 

それは、猛火にも拘わらず、溶け掛けた銀作りの猫の像だった。見覚えがあった。

 

「大殿様、その像は…」

 広元が不審な顔をしている頼朝に尋ねた。頼朝は3年前の、鎌倉での西行法師の顔と話を思い起こしていた。

 

西行め、こんなところに…、やはり」

 頼朝は悔しげに呟いている。

「では、その猫の像は、あのおり西行にお渡しなされたものではございますか」

「そうだ」

「やはり、西行後白河法皇様のために…」

 

「いや、違うだろう。西行義経を愛していたのであろう。まるで自分の子供

のようにな…」

 頼朝は遠くを思いやるようにぽつり述べた。広元はその答えに首をかしげて

いた。

 

思い出したように源頼朝が告げた。

「平泉中尊寺の寺領を安堵せよ」源頼朝は急に大江広元に命令を下していた。

 

源頼朝は信心深い性格だった。三二歳で伊豆で旗を揚げるまで、行っていたことと言えば、源氏の祖先を祭り、お経を唱えることだけだった。

まさに、日々、お経しか許されていなかった。毎日十時間の勤行は、頼朝の心に清冷な一瞬を与えていた。神、仏が見えたと思う一瞬があるのだった。この一瞬、頼朝は思索家と思えるものになっていた。

 

頼朝は、自らの行っている幕府作りが日本の歴史上、大きな転換点になるとは考えてもいる。

板東の新王、ついに平将門以上の存在になった。

 

源氏の長者が、何世紀にもわたって成敗できなかった奥州も我が手にした。

彼の考えていたのは、武家が住みやすい世の中を作ることのみであった。

 

 

■7 1189年文治5年京都

 

 京都の後白河法皇御殿にも平泉落城の知らせが届く。

 

「頼朝、ついに平泉へ入りました」

関白,藤原(九条)兼実が後白河法皇に悲しげに報告した。

 

「そうか、しかたがないのう。平泉を第二の京都にする計画潰えたか。残念だのう」

「せっかく夢を西行に託しましたが、無駄に終わりました」

「が、兼実、まだ方法はあろう」

後白河は、また、にやりとする。

 

「と、おっしゃいますと…」

 不思議そうに、兼実は問い返す。

 

(いやはや、この殿には…、裏には裏が、天下一の策謀家よのう。平泉を第二の京都にできなかったは残念だが、次なる方策は)

 

「鎌倉を第二の京都にすることだ。源氏の血が絶えさえすれば、京に願いをすることは必定。まずは頼朝を籠絡させよう。さらに頼朝が言うことを聞かぬ場合は…」

後白河法皇の目は野望に潤んでいる。

 

「いかがなさいます」

義経が子、生きていると聞くが、誠か」

「は、どうやら、西行が手筈整えましたような」

 

「その子を使い、頼朝を握り潰せ。また、北条の方が操りやすいやもしれぬ。兼実、よいか鬼一法眼に、朕が意を伝えるのだ」

笑いながら、後白河は部屋に引き込んだ。兼実は後に残って呟く。

 

「恐ろしいお方だ」

兼実は背筋がぞくっとした。

 

20131016改訂(続く)

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源義経黄金伝説■第56回奥州の平泉王国第4代国王、藤原泰衡は 一瞬後、その命が吹き引き飛んで。 郎党の裏切りであっ た。 奥州黄金郷は、ここに滅んだ。 1189年(文治5年)9月3日である。

YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第56回奥州の平泉王国第4代国王、藤原泰衡は 一瞬後、その命が吹き引き飛んで。 郎党の裏切りであっ た。 奥州黄金郷は、ここに滅んだ。 1189年(文治5年)9月3日である。
前書き

武家としての源氏、平家の関東制覇と奥州攻略の歴史は長い。奥州の金鉱石を狙い血みどろの争いが続いた。

東国では、名高い平将門まさかどの乱の後、1028年(長元1年)平の忠常ただつねが反乱を起こした。千葉氏の祖である。

 

追討使は源頼信。多田の満仲の子供である。多田(現兵庫県川西市)の源満仲は、源氏、武家の始まりとされ、多田銀山の銀を持って貴族に取り入り、京都王朝での立場をきづく。

 

 

源義経黄金伝説■第56回

 

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■ 1189年文治5年7月 鎌倉

「さあて、源氏の古式にならい、旗をあげる時じゃ、広元、準備おこたりない

か」源頼朝が言った。

大江広元は大江国房の孫である、大江国房が参謀として計画、奥州平泉に攻めいるは鉱山貴族である、源氏が100年程前から「前九年の役」からの野望であった。

「源氏の血を奥州に広めねばならん」

 

「大殿(頼朝)様、日本のすべての国に動員をかけませ。頼朝様の見方かどう

か判断できましょうぞ」

「ということは、源平の争いのおり、我が源氏の軍に刃向かいものどもにも、

動員をかけるわけか」

 

「さようでございます。今天下は大殿さまに傾きつつあります。誰が見方か、

敵か、この動員に参加するかどうかで見事にわかりましょうぞ。これにより、

大殿様の天下草創が周知徹底できましょうぞ。すなわち、源氏が武家の王であ

ることが見事証明できましょう」

「わかった。みなまでいうな。大江広元、その力をもって平泉を征服しょうぞ」

 

武家としての源氏、平家の関東制覇と奥州攻略の歴史は長い。奥州の金鉱石を狙い血みどろの争いが続いた。

東国では、名高い平将門まさかどの乱の後、1028年(長元1年)平の忠常ただつねが反乱を起こした。千葉氏の祖である。

 

追討使は源頼信。多田の満仲の子供である。多田(現兵庫県川西市)の源満仲は、源氏、武家の始まりとされ、多田銀山の銀を持って貴族に取り入り、京都王朝での立場をきづく。

 

源頼義よりよしは奥州に攻め入り、前九年の役(1051年から1063年)、後三年の役 (1083年-1087年)を通じて関東平家を郎党とする事に成功した。

 

源頼義よりよしは、板東の精兵を、奥州の乱の鎮圧に動員した。その契機は平直方なおかたの娘婿となったからである。

平忠常ただつねの乱のお り、平直方なおかたは追討使となり、源頼義よりよしの騎射の見事さ に感心し、娘を嫁がした。

 

平直方なおかたは鎌倉に別荘を持っており、源頼義は義理父からこの屋敷を譲り受ける。

鎌倉は関東平氏のの勢力範囲であったが、源氏は関東地方に人の支配権を得た。源頼義の子供であり平直方なおかたの外孫である義家よしいえは、前9年の役、後3年の役でその武名を天下にとどろかせた。

 

源義家よりの4代目が、源頼朝源義経の兄弟である。

 

後三年の役は1087年に 終わる。

 

その100年後、頼朝の私戦、奥州大乱は、1189年7月に鎌倉の出発を持って始まる。

 

源頼朝は、新しい日本歴史を作ろうとしていた。

 

日本の統一である。

 

■6  1189年(文治5年)9月 平泉王国   

 

 

奥州王である藤原泰衡は悲しくなった。

なぜ私が攻められるのだ。

 

(約束を守ったではないか。ちゃんと頼朝が言うとおり、義経を殺し、その首

を差し出したでしないか。義経を差し出せば、奥州は安堵するという約束をし

たではないか。くそっ、西の人間など、やはり信頼できぬ。この戦どうしたも

のか。助かる手段はないものか。そうだ、ともかくも頼朝に平謝りに謝ろ

う。そうしなければ、親父殿、祖父殿に申し訳が立たぬ。この身、どうしても

奥州仏教王国守らぬばのう。

 そうだ、まだ西行がおる。あやつを捕まえ、頼朝に申し開きもうそう。そう

だ、それがよい。

奥州の平泉王国第4代国王、藤原泰衡は思った。

 

一瞬後、その命が吹き引き飛んでいた。

郎党、河田次郎の裏切りであっ た。

 

奥州黄金郷は、ここに滅んだ。

 

1189年(文治5年)9月3日の事である。

 

(続く)●山田企画事務所

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源義経黄金伝説■第55回★1189年(文治五年)津軽平野を横切る岩木川の河口に十三湖と呼ばれる唐船も出入りする港がある。藤原秀衡その弟秀栄の勢力圏でもある。義経と吉次が目指している。

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源義経黄金伝説■第55回★1189年(文治五年)津軽平野を横切る岩木川の河口に十三湖と呼ばれる唐船も出入りする港がある。藤原秀衡その弟秀栄の勢力圏でもある。義経と吉次が目指している。
 

源義経黄金伝説■第55回★

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■ 1189年(文治五年) 十三湊とさみなと      

 

津軽平野を横切る岩木川の河口に十三湖と呼ばれる海水湖がある。現在は狭

い水戸口で日本海と結ばれているが、昔は広大な潟湖であった。

 義経と吉次が目指していた十三湊とさみなとがここである。

 

 藤原秀衡、その弟秀栄の勢力圏である。

この十三湊を中心に蝦夷地、中国大陸との貿易を行い、繁栄していた。この湊から貿易された蝦夷や、黒龍江など、異民族の産品は、京都に送られ、公家たちを 喜ばせていた。

 夷船、京船など各国の船が商売を求めてこの港をおとづれている。その船どまりに、吉次の船は停泊している。船を外海用の船にさし変えて出かける。食糧、水を積み込むためである。

 

「吉次よ…」

義経は吉次に呼びかけていた。牛若の頃を思い出している。

「そうだ、あの源空はどうしていよう。今の私の姿を見たらどういうだろう」

源空はすでに法然として宗教活動にとりくんでいる。後白河法皇も帰依してい

るのだ。

(無駄な殺生はおやめなされと今でもいうかな。だがすでに私の手はもう汚れている、平家の若武者の屍をいくたり気づいてきたことか。日本全国に死体の山を気づいていた。兄じゃのために、その私が兄者のために、この日本を追われるのだ)

 

今はもう若き頃、思い出だ。

 

「京都の鞍馬山、よう冷えたな」

「はっ、殿。京と鞍馬山よりも奥州平泉の方が寒いのではありませぬか」

 吉次は、義経の質問の意味をうまく理解できずに答えていた。

「いや、吉次。人の心じゃ。京の人の心は冷たすぎる。あの都市の地形によるものなのか」

「殿、これからゆかれる蝦夷はもっと寒うございますぞ。雪も深うござい

ます」

「そこに住む人の心が暖かければよいが…」少しばかり義経は考えていた。

 

「ところで吉次。静は健やかだろううか」

「心配なされますな。後ろ盾には西行様がついておられます」

「が、西行様もお年じゃ」

「ようございますか、義経様。義経様が今日あるは、西行様の深慮遠謀のお

陰。すべて考えられる手は打っておられます」

 

 義経は、目の前に広がる寒々とした日本海の海面を見つめ、寂しそうにして言った。

 

「そうであろうな、無論。が、吉次殿、お前はなんで私を逃がす手助けをし

た。なぜ心変わりした」

「吉次は商人。利で動きますぞ」吉次は僅かに笑ったようだった。

「利か。私と一緒にいて、お主に何の利益がでるか」

 

「ふふう、それはこれからの義経様の動き次第。よろしいか、義経様。十三湊の先は宋国そして、あの金でございます。また新しい国が誕生するとの噂も聞いております。その時に義経様に助けていただきましょう。藤原秀衡様の祖父、清衡様は、昔から黒龍河を逆上っておられます。その河の沿岸には、商品が数多くございましょう」

 

「それに吉次、俺は蝦夷の地図を持っておるからな」

「そう、それでございます。それは言わば宝の地図。いろんな商材がありましょう」

 

 吉次は遠くを思いやるような眼をした。

 

「もう一度、夢を追ってみるか」吉次は思った。

 (奥州藤原秀衡様のお陰で一財をなした。が、その秀衡様も今はない。これからの日の本は、源頼朝殿の世の中になる。が、そのうち外国で一儲けも二儲けもしてみよう。商人吉次の心には、もう日本の事は映っていないかもしれない。

出雲、備前播州、大坂渡辺、京都平泉第、多賀城、平泉、、。

 

あちこちを移り住み、商売をした。平の清盛と共に奥州の金をつかい、福原で宋の商人と貿易もした。日本全国に吉次事の手配の者が散らばり商売を行っている、主人であるこの儂がいなくても、商人の砦としての吉次王国は揺るぎもしまい。儂の後輩が跡を継いでくれよう。日本全国に儂のような商人が増え、日本の商売が繁栄し、日本が繁栄するだ)吉次はそれを、望んだ。

(日本が平和であればよい、すでに頼朝殿により、日本は統一されるだろう)

 

もの思う吉次、義経二人の前に、唐船が、突然現れて、義経らの船腹に急激

に力任せにあたっていた。

 

衝撃が走る。

 「む、この唐船は、、何用」

 「何奴?」

 

船から竿がのび義経の船へ。その船へ飛び乗ってきた僧衣の聖たちが、突

然、義経を圧し囲んでいた。

義経様、お命ちょうだいいたす」聖たちが叫んだ。

「待て、お主ら、誰の手の者だ」

「我らか。我らは文覚様が手の者だ」

 

「何!文覚」

「今はもう頼朝様が世の中。義経様のこの世での役割、もう終わられたぞ。消えていただきたい」

「まてまて、お主ら、文覚殿にお伝えあれ。この義経は兄上と張り合う、そのような望などない。もう私、義経は日の本にはおらぬ。遠い国へ行くのだ。日の本のことなど預かりしらぬこと」

「それが俺らは合点が行かぬ。いつ帰って来られるかわからぬ。それは頼朝様が世を危うくする」

 

 聖たちは、八角棒を構え、殺意をあらわにしている。義経はしかたなく刀を引き抜いている。いにしえの征夷大将軍坂上田村麿呂将軍ゆかりの刀である。飛びかかる男を二人切り放った。船上で、殺戮が始まろうとした。

 

「まて、皆、やめよ」戦船の長らしい男が、船からわたって来て、義経に対峙していた。

義経様と存じ上げます、我らも無駄な殺生はしたくはございません。文覚様からの伝言をお聞きいただきたい」

「何、文覚殿の…、申してみよ」

 

「もし、坂上田村麿呂将軍ゆかりの太刀をお返しくださるならば、我々手を引くように言われております。我らが目的はその太刀でございます」

 

「なに、この大刀を…」

「さようでございます。その太刀は征夷大将軍の太刀、大殿様にとっては征夷将軍という位、大切なものでございます。また皇家にあっては、その太刀が外国に渡ること、誠に困難をを生ぜしめます、なぜなら皇家にとって、その刀は蝦夷征服をして統一を果たした日本国を意味する大事な刀でございます」

吉次が言った。

義経殿、よいではないか。お返しなされい。そんな太刀など、どうでも良いではございませぬか」

 

「何を言う、吉次。お前も知っておろう。この太刀、我が十六歳のおり、鞍馬から盗みだし、ずっと暮らしを共にしてきた刀じゃ。そう、やすやすと…」

 

船長ふなおさが、続けて言う。

「では、こういたしましょうか。約束をもうひとつ。もし、その太刀をお返しくださるならば、決して義経様が和子、義行よしゆき様を襲いはしないとお約束いたしましょう」

 

「我が和子をか。くそ、文覚め」

「が、殿、このあたりが取引の決め所かと」

吉次が告げる。

「この商売人めが。むっ」

しばらく、義経は考える。

「よい、わかった。この太刀、お返しいたそう。が、必ず、我が和子、義行がこと、安全をはかってくれ」

 義経の太刀は、頭らしい男の手に渡った。

 

やがて船と船とを繋いでた桁が外されている。

「では、義経殿。よき航海を、いや、失礼いたしました。これから先の事。我々の預かり知らぬ方。我々は義経殿には合ってはおりませぬ。ただ、海の中から、伝来の行方知らずの太刀を、拾いあげただけの事」

 

 両船は、少しずつ、離れて行く。

 

「が、義行のこと、必ず約束を…」

義経は船にむかい叫んだ。

「わかり申した。文覚様にそう告げます」

「大丈夫でしょうか」

吉次が疑問を投げる。

「まあ、西行殿、鬼一殿、生きておわす間はな、大丈夫であろうよ」

義経は、遠くをみながら言った。

 

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源義経黄金伝説■第54回文治五年(一一八九)六月一三日。 「九郎義経殿の首、届きましてございます」大江広元が、源頼朝に告げていた。

YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第54回文治五年(一一八九)六月一三日。 「九郎義経殿の首、届きましてございます」大江広元が、源頼朝に告げていた。
 

源義経黄金伝説■第54回

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■文治五年(1189)鎌倉

 

文治五年(一一八九)六月一三日。

「九郎義経殿の首、届きましてございます」大江広元が、源頼朝に告げていた。

「何、義経の…」

「いかがいたしましょう。御館様直々に」

 

「いや、止めておこう。顔を見知りおく軍監、梶原景時と、和田義盛に行かせるのだ」

 

これが義経が首か。

塩漬けにされた首が、漆箱から出された。梶原景時は思った。

何とこやつは不思議な奴よ。数々の新しい戦い方を考えつきながら、言う

こと、話すこと、考えることは、まるで童子のような奴であった。

 

義経の首は、塩漬けにされていた。

奇麗に彫金された漆の箱から取り出される。

 

されど、泰衡も可哀想な奴よ。自らの首を絞めよったわ。頼朝様が自分の

弟をこのような目に合わした奥州藤原氏を許す訳がない。なんと政治的見解のない男よのう。所詮は奥州の田舎者。祖父、父よりはずーっと人間が下がりおる。梶原は思った。

 

頼朝様の怖さを知らぬ。あの方は自分の思いどおりに動かぬ者、あるいは頼

朝様の思いを読み取れぬ者を非常に嫌われるのだ。が、それに義経に対する兄弟愛を泰衡は気づかなんだか。

義経を捕縛して、頼朝殿に差し出せば何とかなったかもしれんな。いや

、まてよ、やはりだめか。

 

頼朝様が欲しいのは、奥州は金の打出の小槌よ。頼朝様が言えば言うだ

けの金が送り込まれて来るわ。

これからの戦略を梶原は思った。

 

源頼朝は忙しげにあちこち歩き回っていた。

頼朝は自分で命令しておきながら、義経の首は見たくなかった。

 

「どうであった」

不安げに頼朝は、大江広元に尋ねた。

「梶原曰く、確かに義経様の首であったということです」

「むう、泰衡め。我が弟を殺しおったか。早速、奥州を打つ。我が弟が敵だゃ」

 頼朝は、急に怒り出した。

 

その怒りの激しさに、広元は驚いている。

なぜだ。ご自分が命令なさったくせに。この殿は、京の女子のようなところ

があるな。 

 

院宣はいかがいたします」

「そのようなもの、必要あるまい。この頼朝の弟を殺したは許しがたい。奥州藤原 氏め、余が総指揮をとって攻め滅ぼそうぞ」

 頼朝は甲高い声で、上ずって、まるで常軌を逸してに命令してい た。

「御意。いよいよ日本は、頼朝様のもとに」

 

大江広元よ。日本よりも、俺は義経を殺した藤原泰衡めが憎いのじゃ。父、藤原秀衡があれほどかわいがっておった義経を、自分が王国支配したいがゆえに、 殺してしまいおった藤原泰衡めがのう」

 

「はあ…」

広元は急に気が抜ける気がする。

一体、何を考えておられるのじゃ。が、まあよい。今は奥州藤原氏を滅ぼせ

ばよいのだ。

 

大江広元と、源頼朝は、しばし無言でみつめあう。

 

頼朝は、急に昔にした義経との会話を思い起こした。

「兄上、父上は兄上に似ておられますか」

 頼朝は、急に義経にこう聞かれたのだ。

 

「なんだ、こいつは…」

 義経は真剣な眼差しで頼朝をじっと見つめている。

「こやつは子供か」

と頼朝は思った。

 

義経は、父のことを覚えていないのだ。

一二歳の時まで父親と一緒に戦い、無念にも負けた頼朝とは違う。

 

父親の愛情を受けたこともなく、父の記憶もまったくないのだろう。義経の心のどこかに、父を思う気持ちが常にあるのだ。

と、人間観察にかけては優れている頼朝は思った。

 

このような純粋な心を持っている奴は、かえって危ない。思い込んだらそ

れこそ命懸けだと、頼朝は義経の心の純粋さを羨み、そして義経を憎んだ。

 

一方、大江広元は、鎌倉へ来られよという書状を受け取った日のことを思い起こしていた。

 

貧乏貴族である大江広元は、昇殿を許されていない。つまり、帝にお会いすることなど、かなわぬのだ。

しかしながら、幼少のころから蓄積された学問が、広元の自意識を肥大させ

ていた。

私は大江の家のものだ。自分ほどの者が、なぜ重用されぬのか。藤原の阿呆

どもが、どんどん出世し、なぜこの俺が、このような貧乏ぐらしをしなければならぬのか。

 

鬱屈した意識が、一層勉学に打ち込ませていた。

そんなある日、源頼朝の元にいる知人から、ぜひとも鎌倉へという手紙を受

け取のだ。

 

新たな天地、

板東の鎌倉!。

新世界。

 

広元は迷った。

鎌倉などは町ではない。

 

この当時、日本で都市といえたのは京都、そしてかろうじて南都奈良。そして奥州藤原の平泉。それ以外は泥臭い田舎である。教養人など、一人もいないのだ。  広元は文化の香りが好きだった。知的な会話を欲していたのだ。その知識人のいない鎌倉へなど。

 

しかし、源義経の存在が、広元の意を決しさせた。

 

それは暑い日だった。

その日、木曽将軍を滅ぼした義経の軍勢は、都大路を行軍していた。

 

京の民は、「ほう、あれが義経か」と物見高く、都大路に並び、一目有名な義経を見ようとざわめいていた。義経は武巧一の武者であり、そしていわばアイドル スターだったのだ。

 

大江広元は興味にかられ、庶民の間に入って、義経の軍勢を眺めていた。

「うっつ」

広元は、衝撃を受け、急に道ばたに倒れていた。

何かが広元の額に当たり、一瞬気を失い、倒れたのだ。

 

やがて、気がつくと、額が割れじっとりと血がにじんでいる。

「くそっ、一体」

「だいじょうぶかい、お公家さま」

見知らぬ庶民が、不安げに広元に声をかけている。

「一体、私はどうしたのだ」 思わず、ひとりごちていた。

「お前さん、気付かなかったのかい。義経さまの馬が撥ねた石が、お前さ

んの頭に当たったのさ」

 

額に手をあてる、じっとりと血がにじんでいる。

「何…、今、源義経殿は…」

怒りの勢いに、その庶民の男はのけぞり指さす。

「ほら、あそこさ」

大江広元は勢いこんで人込みをかき分け、源義経の顔を覚えておこうとした。

「おのれ、源義経、覚えておけ」

 

相手は凱旋将軍。何も覚えてはいまい。俺は単なる路傍の石。が、今に見て

おれ。

 

何かが広元の中ではじけていた。

俺は、俺の知識で新しい国の形を作ってやる。源家が武威で国を治めるならば、わが家、大江の家は知識で新しい政治の形を。

 

急にそんな思いが、広元の心を一杯にした。思いもかけぬ考えだった。そんな

ことを、今の今まで考えてもみなかった。

 

この日、しかし、民衆の羨望の目を浴びながら、にこやかに、すこやかに、

何の苦労も知らぬげに、都大路をゆったりと後白河法皇の元へ向かう源義経に、

大江広元は、どす黒い怒りを覚えた。

 

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源義経黄金伝説■第53回平泉での源義経自刀の知らせは、京都の後白河法皇のもとに。法皇はこれからの策を藤原(九条)兼実と話し合う。

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源義経黄金伝説■第53回平泉での源義経自刀の知らせは、京都の後白河法皇のもとに。法皇はこれからの策を藤原(九条)兼実と話し合う。
 

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■ 1189年(文治五年)   

 平泉ちかく北上川の川縁にいる西行が、小船を用意している吉次の方に向って言った。

 

「さて、吉次殿。義経殿の逃げ先、よろしくお願いいたします」

「わかりました。すべておまかせを。して静殿は、いかがいたします」

 

「吉次殿、この手配りは、静殿には話していない。供を付けて京都に帰って

いただくか」

「わたしもそのほうがよいと考えます……」

吉次も首肯した。静は気を失って倒れている、

遠くやけくすぶる高殿、義経屋敷跡の煙が巻きあがっている…。

 

 二日後、北上川の船上に、ゆったりとすわっている義経がいた。

 吉次が姿を見せる。気付いた義経が話しかける。

「のう、吉次殿、十五年前もお主の船で、だったな」

「さようでございますなあ。なつかしい限りでござます」

 

 吉次は、遠くを見透かすような目をする。

「あの折りは、ものもわからぬまま、お主に連れられ、摂津大浦(尼崎)から

多賀城まで一航海じゃった。が、あの頃の俺は、意気に燃えておった」

 

「何をおっしゃいます、義経様。これから、まだまだでございます。これから

の行き先、蝦夷には、新天地が待っていましょうぞ」

義経にとって平泉は新世界であったが、まだ、その先の新世界へ行こうという

のだ。

 

「吉次殿、お前もあの頃に比べると、偉くおなりだな」

「あの仕事で、私に運が開けました。お陰様であの縁で、藤原秀衡様にかわい

がっていただき、このような身代が築けました」

 

「ああ、そうか、すべては西行法師殿のお陰だなあ」

「さようです。西行様のお陰でございます」

「残念ながら、私は西行殿の役には立てなんだ」

 義経はすこし寂しそうな顔をした。

 

西行様の思いとは…」

 

「あの平泉を、第二の京都、陰都とするとする事だ。そして崇徳上皇をお祭

りする事だ。平泉王国を、北のそなえとして仏教王国として、平和郷を作るこ

とだった。その将軍が私だ。また、主上を、平泉お招きするという案だ。この

企みは、後白河法皇も気に入っておられたのだ」

 

「仏教の平和郷ですか。もう、それもこの日本にはございますまい。すべては

鎌倉殿の思いのままになりましょう」

 

藤原泰衡殿が、兄上頼朝殿と何とかうまくやってくれればよいが」

「それは、やはり、むつかしゅうございましょう」

吉次は冷たく突き放した。

 

北上川の水面も寒々と、月光をあびて澄み渡っている。

 

 

「なに、義経、自刀したとな」

京都の後白河法皇がうめいた。

 

「今、多賀城国府より知らせが入りました」

藤原(九条)兼実が答えた。

「しかたがないのう。後は頼朝が動き注意せねばなあ。ところで、義経が家

来、皆、討ち死にいたしたか」

後白河が、兼実に不安げに尋ねた。

 

 後白河の顔色を見て、藤原兼実が意地悪く尋ねる。

「院がお気になさっているのは、弁慶の事でございましょう」

兼実は、うれしげに返事を待っていた

「そうだ、あやつは朕が手先。が、途中で義経に寝返ってしまいよった。せ

っかく熊野の山で見つけた、朕がための闇法師だったのだが」

 

「さようでございましたな。院が熊野へ参拝なさったのも、もう三十回になり

ましょうかや」

「そうなのだ。弁慶は十度目の熊野参拝の折り、朕が、眼につけたのだ」

後白河はそのおりを思い返すように言った。

 

 この時期、蟻の熊野詣といわれるくらいに、熊野詣は流行っていた。我も我

もと、皇族や貴族が和歌山の熊野に詣でるのである。京都から淀川をくだり、

渡辺津から泉州をぬけて…

 

熊野は旧き日本の時から、1つの王国勢力であり無視できぬ。それゆえ、特別

の配慮が行われている。熊野三社は伊勢神宮と同格とされている。大和朝廷統一以前の勢力がいまでも残滓として残っている。山伏もこの地域を勢力範囲とした。

 

当時の海の交通には熊野の海商が、海の侍が大きな役割を果たしている。

 

熊野三社の供御人(くごにんー神社に属する人間)が、遠く奥州まで船を運ん

でにぎわっている。

 

熊野、伊勢の回船や船人をいかに把握するかが、この時期の日本の支配者には

是非とも必要であった、山伏もまた、この時期の日本にひとつの勢力である、

が、源頼朝大江広元は、日本全国に守護地頭という制度をつくり、板東のご家人を送り込む事により統一しょうとした。

 

 十度目かの後白河法皇の熊野巡幸。その折りに山法師が後白河法皇の宿所に

願を願っていた。

 

「殿下、弁慶とか申す山法師、ぜひともお目にかかりたいと申しております」

「どんな奴じゃ」

「いや、それは化け物のような…」

「化け物のようじゃと、おもしろい」

「朕が会ってみようかのう」

「お止めください。危のうございます」

 

その返事の前に、向こうで騒ぎが興り、何かが法皇の前に飛び出して来

ていた。雑色を振り切り、弁慶が雑色たちの人垣を跳躍して来たのである。恐

るべき膂力であった。

 

「私が、その化け物の弁慶でございます」

 

 悪びれずに、その大男は言う。後白河は思わずたじろいでいたが、

「くはは、お主が弁慶か。ふふふ、おもしろい奴よのう」

 が、一瞬、後白河は、弁慶の顔に何かを見たようだった。

「いかがなされました、法皇様」

「いや、何でもないのじゃ。汗が目に入ってのう」後白河は顔をつるりとなで

た。

「それでは、私の考え、お聞きください」

 護衛の武士が追いついて来た。

「恐れ多いぞ、何者ぞ。主上の前なるぞ。いかがいたした」

「よいよい、しゃべらせてやれ」

「よろしゅうございますか。法皇様、この世の中は、断じて間違ごうてござい

ます」

「何をぬかす」

「よいよい、しゃべらせてやれ」」

「平家がごとき世の中を支配するとは、必ず法皇様、天を御所に取り戻してく

ださいませ。これらは我らが願いにございます」

「我らじゃと、我らとは誰じゃ」

「我々、山法師でございます」

 

「ほほう、気にいったぞ。ふふふ、お主の心根、面構え、名は何と申す」

「はっ、武蔵坊弁慶と申します」

「弁慶とやら、朕の闇法師を申し付けるぞ」

 ちらりと後白河は笑ったように見えた。が、弁慶は

「ありがたき幸せ」

 

 と深々と頭を下げているので、その表情が見えない。

「して、お主の母、ご鶴女殿は息災か」

法皇さま、わたしの母親の名前をなぜご存じですか…」

「うむ、昔あったことがな、あるのだ」

 

(続く)

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源義経黄金伝説■第52回 文治五年(1189)4月30日 奥州、藤原泰衡は、揃う武者共に義経殿を高館を襲えと命令を下した。

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源義経黄金伝説■第52回 文治五年(1189)4月30日 奥州、藤原泰衡は、揃う武者共に義経殿を高館を襲えと命令を下した。
 

源義経黄金伝説■第52回

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「もはや、これまでだ。義経殿を高館を襲え」

 文治五年(1189)4月30日 奥州、藤原泰衡は、目の前に揃う武者に命令を下していた。激情で目の前が真っ赤になっているのだ。

 

奥州藤原の武者たち500騎は「おう」と鬨の声を上げる。

藤原秀衡がなくなりまだ、2年とたたない。泰衡は平泉で兄弟や部下の粛正を

つくかえしている。自分の命令を聞かない部下や弟を亡き者にしていた。

その滅亡へ、自ら進んでいるのだ。

 

武者は、義経がいる高館を目指して駆け寄ってくる。

高館の物見がきずく。

高館に火矢が打ち込まれる。

 

泰衡の軍勢は、半刻後、高館を取り囲んでいた。

逃れる道はない。高館へのすべての道は兵で塞がれている。

 

「高館が、燃え上がっております」

 燃え上がる高館近く、北上川の対岸で、西行と静が二人していた。

「くそ、まにあわかたか。静殿、残念だ」

「静殿、義経殿にあのこと伝えてられよ。聞こえるかも知れぬ」

西行は静を促した。

 

「殿、和子は生きておわす」

遠くから、静は義経に呼びかける。聞こえているのかいないのか義経の姿は望

見できない。

「殿、わ、和子は…大江広元様のご慈悲で生きておわす。和子の命、お守りくださると約定いただきました。これは政子様も、ご承知になられております」

 

義経の姿が見えたような気がした。

静の姿にゆっくりうなずき、炎の中に入って行った。

 火の手が高館すべてにまわっている。

 外から呆然と見上げる西行と静。

「さあ、もうよかろうぞ」

義経さま……」

静は、高殿の方へ声を限りに叫んでいる。

 

高館の中、

「もはや、これまでか」

義経はうめいている。

義経様、どうぞ、ご準備のほうを」

 東大寺闇法師、十蔵が、義経そっくりの顔で言う。

十蔵は西行の命令で、この地にいるのだ。

「十蔵、私だけが助かる訳にはいかん。

私を信じてついてきてくれた郎党たちも、助けてくれ」

義経様、それは無理というもの」

 

 義経の回りには、弁慶始め郎党たちが、取り囲んでいる。

皆、覚悟を決めているのだ。

「どうぞ義経様、お逃げくだされ。我々はここで討ち死にし申す」

弁慶が涙ながらに言う。

「そうです。それが日の本のため」

他の郎党も続けた。

「どうか頼朝殿への無念をはらされよ」

「弁慶、自分だけいい子になるなよ」

「よろしいですか。義経様は我々の宝。

いえ、この日本の黄金じゃ、どうか生き延びてくだされ」

「武者は戦場で死ぬものでございます。我々、義経様のために死ぬこと、恐れ

ませぬ。むしろ誇りに思います」

「我々は、平氏との、幾たりかの、戦いを、楽しませていただきました」

「武勇こそ武士の誇り]

義経様…」

 

「俺は良き友を持った」

義経のほおを、滂沱の涙がしたたりおちている。

義経は、その涙を拭おうともしない。

「友ですと。我々郎党をそのように…」

 義経の郎党、全員が義経をとりかこみ泣いている。

皆、胸に込み上げて来るものがあるのだ。

 

 弁慶は思った。

これは愛かもしれんな。

衆道ではない。仏門で、衆道は当たり前だが、俺の義経様への思いは、やはり愛だろう。

そうでなければ、もともと俺は後白河上皇様の闇法師だ。

鎌倉殿の情報を取り入れがために、義経様に近づいた。

 

 弁慶は不思議に思った。

そして時折、後白河法皇の憂鬱げな顔を思い出していた。

弁慶を見る法皇のまなざしには何かがあった。

家族愛、不思議な感覚であった。

 

弁慶は、また、一個の後白河法皇の闇法師、いわば法皇の捨てゴ

マだった、その男に対し法皇のまなざしは何かを告げようとしていた。

 

法皇は、今でもまだ、白拍子を呼んで、今様いまようを口ずさんでおられるのだろうか。弁慶は遠く、京都にいる法皇を思った。

 

「泣いている暇など、ございません。早くお逃げくだされい」

東大寺闇法師、十蔵が促す。感傷に冷や水をかける。

 

「何じゃと、人間の感情がわからぬ奴だのう、お主は」

 弁慶が涙で目を一杯にしながら、十蔵にけちをつける。

 

「弁慶殿、俺らが東大寺闇法師の命は、目的のために捨てるのが定法。

今がその時。一刻も猶予はならんのだ」

 

「十蔵殿…」

 義経が十蔵の肩に手を乗せた。

 

「済まぬ。私がごときのためにのう。おぬしの命を捨ててくれるのか」

「何をおっしゃいます。奴輩は、炎の中で死ぬが本望。先に東大寺での戦で、

多くの部下を殺しておりまする。また目的に死ぬこと、東大寺の闇法師として

恐れはいたしませぬ」

「すまぬ。許せ。皆、さらばだ」

 

 義経は、高殿地下につくられた坑道から消える。

十蔵が支度し、施工した坑道であった。

 

東大寺勧進職である、重源殿の絵図、役に立ったな」

弁慶がひとりごちた。

 

 やがて平泉、北上川を見下ろす、北政庁北西の小高い丘にある高館に、藤原泰

衡の軍勢がわれさきになだれこんできた。

 

「お主ら、ここから先は地獄ぞ。わしが閻魔大王ぞ」

弁慶が叫ぶ。

 

 その弁慶めがけ、数十本の矢が打ち込まれていた。

 

 弁慶は一瞬、たじろぐが、再びからだを動かし

「ぐっ、これは、これは、泰衡殿の武者もなかなかのもの、決して平家の武者どもにひけはとらねのう」

矢羽を片手つかみで、みづからの体から、引き抜きながら、

弁慶は泰衡の兵に打ちかかっていく。

「こやつは化け物か」

泰衡の兵共がその生命力に驚いている。

 

西行と静は、まだ対岸にいた。

静は、うなだれている。

 

「静殿、さあ、今上の別れだ。一節、薄墨の笛を吹いてくださらぬか」

西行様、酷なことをおっしゃいます。それに果たして、義経様に聞こえるか

どうか」

 

「何をいわれる。静殿の義経殿への愛の証し、ここで遂げられよ。

義経殿の冥途への旅に、趣向をなされ。それが、静殿のお持ちの源氏ゆかりの薄墨の笛だ」

 

 西行文人、しきしま道の主導者であった。

この殺戮の場においても、文学者的な演出を試みる。

それが、静には奇妙に思われる。この方西行様は何をお思いなのかか。

 

「薄墨の笛」

これは代々源氏の長者に受け継がれる、鋭い音色の出る笛、竜笛である。

昔から、中国では竜の声として言われているのである。

 静は、この笛を、吉野で義経と別れた時にもらっている。太郎左たちに襲わ

れたときも肌身離さず持ち歩いていたのである。

 

「よいか、静殿、最後の別れ。一節吹かれよ」

西行は、静に命令している。

西行様は、酷なことを、、」

「静殿、義経殿への想いを、この場でされよ…、義経殿とは、もう二度とはこの世の中で会えぬ。別れを惜しまれよ」

 静は、涙ながら笛を手にした。

 

 高館の火の手は、一層燃え上がっている。

 炎を背景に、笛を吹く静の姿は、妖艶であった。

静の目の色は、今や狂人のそれである。悲しい音色が、いくさ場の中で、旋律を響かせている。

『十蔵殿、頼んだぞ。このあいだに義経殿は、お逃げくだされい』

 西行は心の中で叫んでいた。静には義経が逃げる事は教えていない。

時間稼ぎの目くらましに、静を使おうとしていた。

 

「ああ、義経様」

演奏の途中で、静は崩れ落ちる。秘笛は川原にころがりおつる。

 西行は、静を抱き起こし姿を消そうとした。

藤原泰衡の軍勢が、北上川対岸にいる、西行と静に気づき、こちらにむかって

きたからである。

 

東大寺闇法師、十蔵は、高殿の炎の中、僧兵の雄叫びを聞いたような気がした。

 

ここが死に場所。平泉、高館。そして義経殿の身代わり。

何とよい死に場所を、仏は与えてくれたものか。東大寺の大仏を焼いてしもう

た心残り、部下の僧兵たちを助けられなかった責は、これで少しは心がやすんじられよう。

 

悪僧(僧兵)の頃に、心は戻っていた。紅蓮の炎を見ながら、十蔵は思った。

 

心は、その時に舞い戻っている。

 

奈良猿沢の池のまわりに、僧兵の首のない死体がごろごろ転がり、地面を流れ

た血糊が、地を、どす赤黒く染めあげている。

 

東大寺興福寺の伽藍の燃え上がる紅蓮の炎は、火の粉を散らせる。死体を

くすぶらせる煙が舞っている。えもいわれぬ臭みが、辺りを覆っていた。空は

昼というのに、炎のため浅黒く染まって見える。

 

あちこちの地面に差し込まれた棒杭の先には、平家の郎党に仕置きされた僧

兵の首がずらりと無念の形相を露にしていた。

 

ここが死に場所、熱さが十蔵の意識をおそう。

 

紅蓮の炎が重蔵の体をなめ尽くした。

 

東大寺闇法師、十蔵の体は、義経として滅びた。

(続く)

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