yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

ロボサムライ駆ける■第四章 剣闘士(2)


■ロボサムライ駆ける■第四章 第四章 剣闘士(2)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
第四章 剣闘士 (2)
 東京島
 『鉄』が再び主水の部屋を訪れてようとしていた。エレベーターに乗っている。
 主水の屋敷は旗本ロボットが居住している公国アパートである。ストリップエレベーターからは、遠く、静岡や房総半島などが眺められる。
 間取りは一二畳、一二畳、六畳、バス・トイレ付である。家賃は三十六万円。家賃は徳川公からの給与から差し引かれている。
 ロボットにバス・トイレが必要かという疑問があるが、ロボットは体の外部、内部の洗浄が常に必要であった。
 押し入れには、体の各部分の部品の予備が常備されているのである。
 ロボットは食事はしない。が、かわりに栄養液が必要であり、そのため水道の蛇口と並んで、栄養チューブが常備されていた。
 家具も必要ないと思われるであろう。が、ロボット標準設備としては、修理用ベッド、自己精製用コックピット、レーダー精製装置、武器・弾薬整備セット、油圧調整モジュールなど、人間の家具より重量があり、かつ容積を取る家具が必要なのである。当然、ロボット整備中の爆発事件も微量ではあるが起こるので各部屋の壁・床は合金システムとなっている。
 マリアは、整備用のベットで眠っていたようだった。
「何か御用ですか、鉄さん」
「だって姐さん、だんなが西日本へ行って日数が立ちやすんで、何か伝言が情報モジュールにでも入ってやしないかと思いましてね」「鉄さん、あなた、主人思いの方ですよね。でも、まさかホモ友ってわけじゃないですわね」
「マリアねえさん。め、めっそうなこと、いっちゃいけませんぜ」
 と、いいながら、顔を赤らめる鉄であった。ロボット顔面には人工皮膚が使用されており、人間と変わりがないほどの表情を示すことができる。
「まあ、そうおっしゃるのなら調べて見ましょう」
 マリアは、奥の部屋にある情報モジュールを操作してみる。
 情報モジュールには、電話、FAX、パソコン、キーボード、CPU、CRT、BS、CS、オーディオ、ラジオ、有線放送などすべての情報ラインが纏めてある。モニターには情報が入っていなかった。
「何の情報も入ってはいませんわ。お生憎様ですわね、鉄さん」
「だって、姐さん、何の心配もなさらないんですかい」
「じゃまいたすぞ」
 そのとき、玄関先で声が聞こえる。
「悪いけど、お客様を見て来てくださる」
「へい、がってん」
 が、急にマリアの元に戻って来る鉄。
「て、ていへんだよ、姐さん」
「どうしたのですか、そんなにあわてておられて。まあ、あなたのあわて者ぶりはロボット界じゃ有名ですけれど」
「これが驚かずにいられますかってんだーい」「ラブ・ミー・テンダー」
 それを受けてマリアが言った。
「姐さん、俺のしゃれを先に言っちゃいけねえよ」
 急に不機嫌になる鉄。
「そんなことをいってる場合じゃないんだ、殿様がここへお出でなんで」
「じゃまするぞ、マリア」
 徳川公廣だった。徳川家康そっくりの笑顔をして入ってくる。
「ええ、汚い、狭いところですが。どうぞ、殿様」
 鉄が答える。
「おやおや、何をおしゃられるの。ここはあたしの家ですよ」
「苦労をかけるのお、マリア。こんなアパート暮らしをロボ旗本たちにさせたくないのじゃが、いかんせん、徳川公国の予算というものがあってのう」
「いや、お上の言葉、ありがとうございます。あたしどもはお上からそう言っていただけましたら、何の悩みもございません。本当にいい殿様にお仕えさせていただき、ありがたき幸せ」
「ちょっと、鉄さん。何をおっしゃってるの。それを言うのは私ですよ」
 今度はマリアが怒った。
「まあ、よいではないか、マリア。ところでそちは日本の暮らしになれたかの」
「ええ、ありがとうございます、お陰様で大分。それに主水様がよくしてくれます。それとこの鉄もよく仕えてくれますので、何の不満などありますものか…」
「また、鉄さん、先走りするんじゃありませんことよ」
「で、殿様。今日は何の御用で、このあばらやへ」
「あばらやでわるうございましたわね」
 マリアが鉄の顔をゆっくりとぐっとつねる。「いていて、あっしの家じゃないからよござんしょ」
「よけいにわるうございます」
「ちと、困ったことが起こってのう」
 二人の戯れを見ながら徳川公は顔を曇らせた。
「どうしたんですかい、だんなが何か」
「これこれ、鉄。先を急がすものではない。実は…」
「実は…何なんですかい。徳川公国が借金のかたに東京島から追い出されるとか」
「鉄さん、言って良いことと悪いことがございます」
 マリアが、鉄の頭に洗浄皿を投げ付けた。「実は、主水が行方不明になったのじゃ」
「何ですって」
「落合レイモン様はいかがなされた」
「レイモン様も行方不明じゃ」
 マリアは尋ねた。
「た、大変だあ」
 鉄が飛び上がった。
「何の手掛かりもないのでございますか」
 マリアが続いて尋ねる。
「そうなのじゃ、行列だけはかえってきよった」
「大変だよ。だんながバラバラにされちゃって、今頃は大阪のごみ捨て場だよ」
 急に鉄が泣き声を上げて人工涙をよよと流し始める。
「おい、おい」
 徳川公が驚いている。
「鉄、騒ぐなというに。それでお前たちに助けて欲しいのじゃ」
「わかりました。がってんだ。西日本都市連合め、眼にものを見せてくれるってんだ。ねえ、姐さん」
「鉄さん、落ち着きなさいませ。あなた、頭のボルトが三本くらいおっこちているんじゃございませんか」
「あーあ、姐さんも酷いことをおっしゃる。私がこんなにだんなのことを心配しているってえのに」
「鉄、頼むから、静かに私の話を聞いてくれ」 徳川公が呆れている。
「だから、静かに聞いてるじゃありませんか。あっしのどこがうるさいってんいすかい」
「この、へらず口」
「あーあ、どうせ、あっしはへらず口でござんすよ。あっしはこの体に生まれつく前から口だけでしゃべってたってことで有名なロボットでござんす」
 鉄もしゃべりだすと止まらない。
「わかった、鉄。お前とマリアで、主水を探しに行ってくれ。ついでにレイモンをな」
「わかりやした。さすがは殿様だ。家来の難儀をほってはおけない。さすが名君。世界で一番偉い殿様ってのは、徳川公のことだね。地球史に残る。ほんとに、この…」
 しゃべりのエンジンがかかって、どんどんがなっているのだ。
「マリア、この男、大丈夫かのお」
「お任せくださいませ」
 マリアは、鉄の首の一点を急につかむ。
「な。何をするんですかい。姐さん」
「あなたのその役たたずの口を塞ぐつもりです」
「それはいけねえや。ロボット人権を認め…」 あとは無音となる。鉄は口をパクパクさせているが、声は聞こえて来ない。マリアが鉄の声のアンプを切ったのだ。
「あ、これで、そちと話ができる」
「いかようにして私たちは西日本へ参りましょうか」
「済まぬが、空軍の飛行船で行ってくれぬか」「飛行船でございますか」
「そうじゃ、陸上を移動すると、どうも眼につくのでのう。それに、お前は外国ロボットじゃ、よけいにのう」
「わかりました。もし主水様を見つけましたら、いかがいたしましょう」
「捕らわれておれば助けだし、二人でもってロセンデールの野望を探って欲しいのじゃ。おお、そういえばマリアは、ロセンデール卿を知っておったのう」
「さようでございます」
 マリアは顔色一つ変えなかった。
「神聖ゲルマン帝国のルドルフ大王の宮廷で、何度かお目にかかっております」
「どうじゃ、お主はゲルマンロボット。いざというとき、つまり、もしロセンデールと戦わなければならなくなったとき、そちは徳川、いや日本のために戦ってくれるかのう」
「もちろんのことでございます。私を受け入れてくれました日本こそ、今の私の故郷でございます」
「それは、ありがたい」
 といいつつも、不安を隠せない徳川公廣だった。もしマリアが変身するような事があったらどうなるのだ。その心配が幸いに徳川公廣の心を占めていた。が、他に方法はないのだ。
「鉄、よいか。今からお前は旗本に回状を出して皆を集めよ。一丸となって、大阪湾に向かうのじゃ。ロセンデールの野望を崩せ。頼むぞ、マリア」
「わかりました殿様。お望みの通りにいたしましょう」

     ◆
 三時間後、鉄、マリア、そしてロボット旗本組の面々は、徳川空軍機「高千穂」「飛天」に乗り込み、西日本へと向かった。
 徳川空軍基地から飛行船が飛び立つのを見送る男が一人。
「これで仕事がやりやすくなったわ」
 その影は走り去った。

     ◆
 その日の夜、東京城の建物は、夜風が吹いてビューツと唸っている。上層から東京の夜景が奇麗に見える。徳川公廣は、その夜景を楽しんでいた。
「徳川公でござるか」
 急に声がした。
「誰じゃ」
 徳川公は回りを見る。数十メートルの高さにある、東京城の窓から侵入して来るものがあった。警報装置は作動していない。その男は黒い服で身を固めている。顔も覆面で隠れている。
「貴様、何奴」
 徳川公は小刀を引き抜いていた。
「やつがれは、西日本年連合に仕えるロボ忍花村一去(いっきょ)。お見知りおきいただきたい」
 ぐいと徳川公に近づいて来る。
「その一去とやらが、余に何用がある。また、この東京城の展望オフィスまで、どうやって上がってきたのじゃ」
 あとずさりしながら徳川公は問いただす。「ふっふ、ロボ忍にとってはたやすいこと」「が、我らが護衛いかがいたした」
「全員、眠っていただいており申す」
「くそっ、肝心のおり役にたたない奴らじゃ」「何しろ、忍者は、西日本が本場にて。徳川公、お体お預かり申す」
「何を申すか」
 一瞬後、徳川公は当て身を食らわされていた。
「ふふっ、たわいもないのう」
 にやりと笑う花村の笑みに折から上がる月の光が凄絶な凄みを与えている。
(続く)
■ロボサムライ駆ける■第四章 第四章 剣闘士(2)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/