yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

源義経黄金伝説■第69回鬼一方眼との死闘のため、頭や顔は朱に染まり、足取りもおぼつかぬ文覚は、大江広元屋敷の元を訪れている。

YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第69回鬼一方眼との死闘のため、頭や顔は朱に染まり、足取りもおぼつかぬ文覚は、大江広元屋敷の元を訪れている。
 

源義経黄金伝説■第69回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・Manga Agency山田企画事務所

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■ 1199年(建久10年)鎌倉

 

文覚は、対決の後、しばらくして、広元屋敷の元を訪れている。

 

文覚の頭や顔は朱に染まっている。

足取りもおぼつかぬ。

鬼一方眼の打撃の後がゆっくりと文覚の体をむしばんでいる。

鬼一の八角棒には、やはり丹毒が塗られていた。

 

大江広元殿、鬼一方眼はワシがあやめた、これで、あやつらの王国、勢いがなくなろう」

文覚は、大江に満足げに言った。

「さようでございますか。それは重畳。しかしながら、いかがなされた。その傷は」

「我のことなぞ、どうでもよい。よいか、大江広元、義行を逃がせ」

「源義行を…、何を言う。気が狂られたか」

 

「よいか、大江広元。私、文覚は、元は武士である。鬼一との約束は守らねばならぬ」

 文覚は息も絶え絶えに言うのである。

 

「皆の者、出て参れ。文覚殿、乱心ぞ」

 

大江広元は、屋敷の郎党を呼び寄せる。

「くそっ、広元、貴様」

 手負いの熊のように文覚は、広元の手の者と打ち合うが、多勢に無勢。おま

けにひん死の状態の文覚は打ち取られる。

「残念、無念。清盛、西行、お前らが元へ行くぞ」

とらえられ、牢につれていかれる文覚が、いまわの際に叫んだ。

 

文覚は,今は亡き好敵手西行の最期を、そして西行から聞いたある話を

思い起こしていた。

 

待賢門院璋子けんれいもんいんたまこは、西行の手を強く握りしめている。

待賢門院璋子は後白河法皇の母君である。

その臨終の席に西行が呼び寄せられていた。

 

「二人の皇子をお守り下され。西行殿。私の最後の願いでございます」

「わかりました、璋子様、この西行の命に変えても」

 

西行は宮廷愛の達人でもあった。この時期日本は宮廷愛の時期である。

 

待賢門院璋子の二人の子供とは、崇徳上皇後白河上皇である。

 

璋子は鳥羽天皇の間に後白河法皇を生み、鳥羽上皇の祖父である白河法王の間

崇徳上皇をうんだ。白河法皇は璋子にとり愛人であり、義理父であった。

いわゆる源平の争いは、璋子を中心にした兄弟けんかから起こった。

 

西行は璋子のために終生、2人の御子を守り事を誓ったのだ。

西行は璋子のために、京都朝廷のしくみを守りために、その生涯を捧げた。

西行と文覚は、若き頃、恋いにそまりし王家を守る2人の騎士であった。

 

それでは、文覚は、日本の何を守ったのか。自問している。

 

文覚は若き折り、崇徳上皇の騎士であった。

上西院の北面の武士である。

しかし、文覚は保元の乱の折り逃げ出している。その折りの事を西行はよく知っているのだ、言葉で攻めていたのだ。

 

西行は、いまはのきはに、叫んでいた言葉を思い起こす。

「文覚殿よ、天下は源氏におちたと、、思わぬほうがよい」

「何だと」

「頼朝殿の義父、北条、平時政殿の手におちるかもしれんな」

西行の死に臨んでの予言であった。

 

いにしえ、坂東の新皇と自ら名乗った、平将門まさかどの乱平定に力があ

ったのは、藤原秀郷と平員盛である。藤原秀郷の子孫は、奥州藤原氏西行

家などである。

平員盛の子孫が、伊勢平氏と北条氏であった。

 

(続く

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新人類戦記第三章聖域第24回 各国政府首脳と情報関係者がテレビ会議を行う。しかしビサゴスではさらなる変化が。

新人類戦記第3章聖域南西アフリカ、紛争地域ビサゴス共和国に入りを抜け、ジョバ河をさかのぼり、悪魔の山アコンカグワを目指す2人の姿があった。アコンカグワ地下古代都市で人類創世の神が復活した。
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新人類戦記第三章聖域第24回 各国政府首脳と情報関係者がテレビ会議を行う。しかしビサゴスではさらなる変化が。
 

新人類戦記 第三章 聖域 第24回

作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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アメリカとソビエトの冷戦時代の話です)

 

■世界首脳会議 東京帝京ホテル地下 テレビ会議システム。

 

 モニターからざわめきの声がIかたまりになりスピーカーから聞こえてきた。

「ビザゴス政府から全世界へ向けての放送がありました。画像を中央モニターに出力します」

 

 映しだされたのは、ビザゴス政府大統領ラオメの顔だった。

 

「全世界の皆さん、我々の国が約一ヵ月の間熱球に包み込まれていた事は御存じでしょう

か。これは我々ピナゴス共和国が新しい人類として誕生するために必要だった期間なのです。

そして、今、我々ビサゴス人は選ばれて新しい人類として生れ変ったのです。

 

 

 全世界の皆さん、我々の仲間に加わりなさい。そうすれば永遠の安息があなたの心に生

ずるでしょ 今の世界は熟しきつた果実なのです。いずれは腐り、、破壊という地面に落ちなけれぱならない。滅亡の黒い房が口を開け、すぐ目の前にある事にあなた方は気がついていない。

すぐ我々の仲間、新人類に加わりなさい。

 

 そうしなければ我々新人類があなた方を滅ぼすでしょう。まず手始めに、我々はアフリカ全土

を掌中にします。我々には神の兵士がいるのです。そして我々には神の御加護があります。

この神とは、我々人類を生み出した創造主なのです。すべての宗教、宗派を越えて、彼は

神そのものなのです。

 

私は単なる神の下僕であり、メセンジャーボーイにしかすぎません。

我々はもう「神の国」を目の前にしているのです。もし、あなた方が我々にさから

おうとすれば、我々はあなた方をにぎりつぶさざるを得ない。これは我々にとって、聖な

る戦いなのです。聖戦なのです」

 

 放送は消えた。

 

「何をたわけた事を」

ソビエトの アンドロポフは言った。

 

「ジャブロ君、あの画像を見て何か気づいた事ないか」

 

アメリカ大統領が尋ねた。先刻のラオメの顔と昔のラオメの顔が同時に映写された。

 

「むしろ、今の方が自信を持ってしゃべっていたようですね。彼は間違いなく、自分の意

志で今の発言を行なったのでしょう。もし何かにあやつられていたなQば、眼の輝きが違

ったはずです」

 

 アメリカ政府戦略担当官ジャブロは断言する。彼は心理学の博士号もとっているのだ。

「が、少なくとも、奴のバ。クには何かがあるはずだ」

フランスDITの局長が言った。

「ビザゴス解放戦線の連中はどうしたというのだ」

 

「もう一つ、新事実が入電しました。ビサゴスの軍隊が、英領ポートモレスビーを攻撃中との

事です」

 シャブロがモニターを示して言った。

「くそっ、どうですか、こちら側の駒を使いあの国の内部を調べなければなりますまい」

 イギリス首相が述べた。

「というと、南アを使うおつもりなのですかな」

 ソビエトのブレジネフが尋ねた。

 

「アフリ力の黒人国家化をおそれているのはもちろん、南アですからね。一押しすれば、

彼らは何らかの手段をとるでしょう」

 イギリス情報局長が言った。

 

 中央モニタースクリーンに、アメリカの偵察衛星の像が受信された。

 彼らはそのビサゴス協和国の現況画像を見て、一様に戦慄した。

 

 アコンカグワ山自体が消滅していた。

 

新人類戦記 第三章 聖域 第24回

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アメリカとソビエトの冷戦時代の話です)

源義経黄金伝説■第68回★1199年(建久10年)鎌倉大倉山に、伊豆からの春嵐がふきすさぶ山頂に鬼が二匹、己が思想に準じて舞い踊る。

YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第68回★1199年(建久10年)鎌倉大倉山に、伊豆からの春嵐がふきすさぶ山頂に鬼が二匹、己が思想に準じて舞い踊る。
 

源義経黄金伝説■第68回★

 

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第9章 1198年(建久9年) 鎌倉

■5 1199年(建久10年)鎌倉大倉山 

 

 鎌倉の街の背後にそびえる大倉山山腹に、びょうと風がふいている。

 

 鎌倉の周り北東西三方に山山がとりまき、南は海に開いている。鎌倉は自然

の要塞であった。大倉山山頂から頼朝が作りあがた要塞都市の姿がよく見え

る。文覚はだれにも手出しできぬように、この決闘場を選んでいた。

 

 伊豆からの春嵐がふきすさぶ山頂に鬼が二匹。

 

「鬼一方眼、今度が最後の勝負ぞ。いずれにしろ、お主らが丹毒で、頼朝様、もっ

ても7日だ。お主らを倒しておかねばのう。この鎌倉幕府が持たぬわい」

鬼一方眼も構えている。

 

「おおよ、その勝負、受けたぞ、文覚。俺も京都一条の鬼一法眼。あとくされ

ない勝負だ。これで引き下がったとあっては、俺の名折れよ」

 

二人の体に、伊豆からくる少し早い春風が、吹き巻いている。

 

人の気配のない大蔵山の山頂に、二人とも八角棒を手にして微動だにしない。

 

「それに鬼一、安心せよ。儂は西行殿と9年前に約束しておる。勝っても負け

ても、源義行殿の命は安全よ」

「それを聞いて安心した。お主も闇法師の端くれであったか。約束は守るの

か」

「当たり前よ。ましてや、西行殿の今際の際の言葉だ」

「いざや、まいる」

 

とどちらからともなく打ちかかっている。

激しい打撃音が、大倉山全体に響く。山に住む野生の動物たちが勢いで逃げ出してくる。

 

「よいか、鬼一。お前たち、山の民どもの住む所など、もうこの世には存在せ

ぬ」

激する文覚が声高に叫んでいた。

「頼朝ばらに、我々の王国など支配できるものか。いあや、支配させるもの

か」

鬼一方眼が、鋭い文覚の八角棒の一檄を受けて叫ぶ。

 

鬼一方眼の言う王国とは、京都大和王朝が成立しても、なお連綿と続いている、

前の王朝、葛城王朝の流れを汲む『山の民の王国』である。歴代の京都朝廷も

彼らの見えざる王国を認め、協力者としていたのだ。それを文覚は無くなると

言うのだ。

 

「よいか、頼朝様が、征夷大将軍となり、十年前に奥州平泉王国を滅ぼした

今、我々武家の世の中よ。日本は頼朝殿によって統一された。支配するのは

鎌倉将軍。また山々、山山林のすみずみまで、鎌倉から守護、地頭をつかわし、

網の目のように日本全土に支配を巡らせる。お前たち、山伏を始め、山の民の

住む所なぞないわ。義経が逃げた場所などもうなくなる」

 

「くそっ、ゆうな。文覚、それであるからこそ、お主ら倒さねばならぬ。お主

は鎌倉を代表する攻撃勢力。我々自由民のためにな」

「無駄よ。京都朝廷を頼朝殿がおさえれば、『山の民の王国』など認めるもの

か」

平清盛殿、西行法師殿、後白河法皇様。皆、我らが味方であったぞ」

「それも終わりぞ。義経殿も、もう日本には帰ってこれぬぞ」

 

文覚の言葉に鬼一はたじろく、

(なぜそれを知っている)

「貴様、なぜ、それを」

 

「ふふっ、きんに逃れるところを、儂が、のがしてやったのだ。

鞍馬寺の宝、征夷代将軍、坂上田村麿呂公の刀と引き換えにな」

 

「くそ、これが最後の一撃…」

鬼一は、渾身の力を込めて、文覚に打ちかかっていた。

 

八角棒はぱしりと折れ、鬼一の棒が、文覚の頭蓋を、天頂を打ちすえている。

 

一瞬、時の流れがとまる。

二人の体は止まっている。

風も一瞬凪いだ。

 

急にゆるやかな太陽の光が、雲間からふたりの体を照らした。

 

折れた八角棒の先を、文覚は鬼一の胸板を貫いている。

 相打ちである。

 

 血のにおいがただよっている。

鬼一の方が致命傷となる。

足下に体液の流れが、大地をすこしづつ、赤黒く染めていく。

 

「くっつ文覚、どうやら、我々の時代は終わったのう」

 

苦しげに、鬼一は呻く。

血が口からしたたり落ちてくる。

 

 しばらくして文覚が告げる。

 

「鬼一、よい勝負だった。それに約束だけは守ってやろう」

「約束だと」

血みどろの鬼一方眼の疑問の顔が、文覚に向いた。

 

「源義行殿を、鎌倉から逃がすことじゃ」

相対する文覚の顔と体も、すでに血にまみれている。

 

「それは有り難い、文覚殿。その事、恩にきる。ぐう」

 

ひとこと発し、鬼一の体がゆっくりと大地に沈んでいく。

 血の気が失せていく鬼一の体に、文覚は両手で拝む。

 

「鬼一方眼殿のお仲間の方々、後はお願い申す」

 まわりの気配に対し、文覚は周りを見渡し大音声でさけぶ。

 

折れた八角棒を杖として、頭から血を流しながら、文覚は鬼一の体を残し

そこを去って行く。

文覚は山道で立ち止まり、振り向く。

目には血が流れ込んでいる。

 

「鬼一方眼殿、さらばだ」

 

 文覚の姿が消えた後、山伏の群れ、結縁衆や、印字打ちの群が現れていた。

 数人が鬼一方眼の遺骸を取り囲む。

 

 「後を追うか」一人が叫ぶ。

 「無駄だ、あのおとこには」

 

「刃の鬼聖」文覚の名前は、紀州にも響いている。

文覚は日本各地の山伏の生地で荒行をくり開けしていた。

 

「頭の最後の命令にしたがおう」

「それより、我々はな、、西行法師殿の伝説を、この世に広めねばなるまい

それが、われら、後に残りしものが役目ぞ」

 

鬼一方眼の義理の弟、淡海が、強くいう。

目じりが光っていた。

 

(続く20131026改訂

 

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源義経黄金伝説■第66回1199年(正治元年) 霧の中で落馬した源頼朝の目の前に炎上する鎌倉の姿が見えている。

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源義経黄金伝説■第66回1199年(正治元年) 霧の中で落馬した源頼朝の目の前に炎上する鎌倉の姿が見えている。
 

源義経黄金伝説■第66回

 

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 1199年(正治元年) 鎌倉

 

 鎌倉の朝。1199年(正治元年)1月13日

 

鎌倉街道の地面に落ちた霜が太陽を受けて、湯気をあげている。気おもいで

気分のすぐれぬ頼朝は、単騎でゆっくりと動いて来る。大姫の死が、頼朝の

こころを責めさいなんでいる。

 

鎌倉街道の要所、相模川の橋の完成式の帰りであった。この時のお共には、広

元は最初から参加していない。頼朝は馬に乗り、見知らぬ道を通っていた。ふ

と、回りを見ると、いつもはいるはずの郎党共の姿が見えない。おまけに辺り

にはうっすらと霧が出てきたようである。

 

「これは面妖な…、ここはどこだ…」

きづくと霧の真ん中に頼朝が一人。

 

 頼朝は、ひとりごちた。道の向こうに人影がぼんやりと見えている。

「おお、あそこに人がおる。道を尋ねよう」

頼朝はそちらに馬を進めた。

 

 すでに鬼一法眼の術中に嵌まっていることに、頼朝は気付いていない。

鬼一得意のの幻術である。

 

 この時、頼朝の郎党の方は、大殿の行方を捜し回っている。

が、みつからぬ。二股道の一方を頼朝が通ったあと、鬼一の手の者が偽装したのだ。頼朝は、郎党から切り話されて霧ふかき見知らぬ森の中にいる。護衛から全く切り離され、一人きりなのである。

頼朝を乗せた馬は、一歩一歩と、その人影に近づいて行く。

 

どうやら、若い女性のようだ。旅装で網代笠を被っている。頼朝は馬上から

尋ねた。女の体つきに、へんに見覚えがあった。

「これ、そこなる女、ここはどこなのだ。そして、鎌倉までの道を教えてはくれ

ぬか」

 女はくぐもった小声で答える。

 

「頼朝殿、鎌倉へお帰りのつもりか。もう鎌倉はござらぬぞ。お前様は帰ると

ころがない」頼朝は奇異に感じた。

「何を言う、貴様、妖怪か」

 

叫ぶが早いか、頼朝は、女の網代笠を馬の鞭で跳ね飛ばした。瞬間の霧の中

から、ごおーっという音が起こっている。

おお、これは…、幻影か。

 

頼朝の目の前に炎上する街の姿が見えていた。霧の仲にくっきりとその映像が見えるのだ。

頼朝は、平泉のことを思い出しているのかと一瞬思う。う、これは、なんとした事。

が、よく見ると、そこは鎌倉なのだ。

 

「何ということ。儂の鎌倉が燃えている。どういう訳だ」

自分が手塩にかけた愛しき町が燃え上がっている。鎌倉という町は、頼朝にと

っていわば、自分の記念碑である。

「き、貴様」女の顔を見る。

 

「うわっ、お前は大姫」

 四年前に奈良でなくなったはずの愛娘、大姫の姿がそこにあった。大姫は頼

朝の方へ両手を伸ばした。顔はて暗がりではっきりとは見えないのだ。

「さあ、父上、私と一緒に極楽浄土へ参りましょう」

 大姫が指さす方は、燃え上がる鎌倉である。

 

「あの中へと」

 その炎上の中にいる人々の姿がはっきりと見えていた。平氏、奥州・藤原氏

の武者、そして源氏の武者、おまけに義経の姿もある。今までの頼朝の人生で

手にかけてきた人物たちである。

「さあ、父上の親しい皆様が、ほれ、あのようにあちらから呼んでおいです。さあ、父上、はよう」

 

 頼朝はゆっくりと馬から降りて、ふらふらとそちらの方へ歩んでいる。

 突然、石つぶてが、頼朝の体といわず頭といわず降り注いできた。

「ぐっ」

 

 頼朝は、頭に直撃を受け倒れ、気を失う。淡海の部下が数名、投弾帯や投弾

丈をもちいて、ねらいたがわず、頼朝に命中させていた。投弾帯は、投石ひも

ともいわれ石弾をはさむ一本のひもで、石弾をはさみ下手投げでなげる。時速

八〇キロの速度はでた。

 

 頼朝はしばらくして気付いた。が、目の前はまだ霧の森の中である。

「い、今までのことは夢であったか」

頼朝は叫んでいる。

 

 

人影がある。大姫の姿があった。

「お、大姫。助け起こしてくれ」

 今は亡き大姫の名前を呼ぶ。しかし、大姫は反応しない。

 

「儂が悪かった。許してくれい。お前の幸せを考えず、志水冠者殿を殺してし

まったのは、俺の不覚じゃ。許せい」

志水冠者は、頼朝が殺した大姫のいいなづけ、木曽義仲の息子である。

 

 大姫の姿がするすると、頼朝のところへ近づいて来る。

「本当に、そうお思いですか」顔をよせてきた。

「そうだ」頼朝は、大姫の顔を仰ぎ見た。

 

 いった瞬間、大姫の服が弾き飛ばされている。

 そこには、うって変わって、りりしい若い武者が立っている。

 

「お、お前は何者」

大地をころびながら頼朝が叫んでいた。

源義経が遺子、源義行にございます」

 頼朝は、驚き、その人物の顔をしかと観察する。

 

「まてまて、お前は義経が子か」

「そうでございます」

 義行は、頼朝に対して刀を構えている。しかし目には不思議に憎しみはない

のだ。頼朝に対する哀れみが見える。

 

 この男は…、本来ならばおじになる。

 

が、我が父を葬った男。鬼一から話を

聞き日々の憎しみを増幅させ、この計画を練ったのだ。しかし、実際に、頼朝

と対峙してみる、と、悪辣なる敵のイメージとあまりにもかけはなれている。

 

源頼朝の姿には一種独特の凄みがありながら、その体から悲しみを感じるのだ。

 

愛娘を死なした絶望が見える。頼朝の人生は多くの人々の亡骸から気づかれてい

る。悲しい人生かも知れぬ。おのの存在、源氏の長者として大きくみせなけれ

ばならなかった。いままで、源氏のだれもが、望み得なかった高見に頼朝はい

るのだ。

 

しかし、この悲しみの原因は何のか。

そして、義行を哀れみの情で見ているのだ。驚いたことに頼朝は、涙を流しているではないか。

 

源義経の息子、源義行は思わずたじろぐ。

 

「義行か、不憫よのう、お主は、おのが父親、義経が、北へ逃れ、蝦夷の王、

いや、山丹の王になっておるをお主は知らぬのか。

吾輩みづからが、ある人物との約束で、それを許したのだ。」

 

何をいまさら、血舞よい事を。

その言葉の一瞬、源義行は、頭に血が上り、

この後に及んで、私をたぶらかそうとするのか。

やはり叔父上は、見かけではなく、本当に悪人なのかも知れぬ。

義行は、迷うが、怒りをあらわに再び切りかかる。

 

同時に、木陰から数個の石が雨あられと降り注ぐ。再び狙い過たず、頼朝

の体に命中していた。額からは、うっすらと血が滲んでいる。頼朝が再び地に

伏す。

 

蝦夷だと、ええい世迷いごとを、、叔父上、 父義経の敵、覚悟…」

 源義行が、大声で呼ばわり、大地に倒れている頼朝に走りより、刀で刺そうと

した。

 

 突然、じろりと頼朝が、うつむいていた顔を持ち上げ、義行にまなざしを向

ける。 不思議な鋭い眼差しであった。空虚うつろ。深き絶望が、その眼の中に見えるのだ。

 

「ううっ…」

義行は、振りあげた刀を、叔父の体に振り下ろすことができない。

「うっつ、くそ」

 

義行は、叫び声をあげ、いたたまれなくなり、急に後を振り向き、霧の深い

森の外に走り出した。

 

義行の体がおこりのように、体がぶるっと震える。

 

なぜだ、なぜ俺は、この父の敵の叔父上を打てぬのか。それに父が、、

わが父、義経蝦夷、山丹の王だと、聞いていない。鬼一方眼はそれを知っていたのか。

疑問が渦を巻く。

「くそっ」

義行は、途中で思わず路傍に、武士の魂、刀を投げだすように捨てた、一目さ

んで逃げ出している。

 

倒れている頼朝の側に、霧の中からのそりと僧服の大男が現れていた。

「頼朝様、ごぶじか」

「おお、文覚、助けに来てくれたか」

「鬼一方眼、ひさしぶりだのう。お主の計画、俺が止めてやるわ」

霧の中に向かって文覚がしゃべっている。

森の中の霧が、ゆっくりと薄らいできた。

 

霧の中から、同じような格好をした鬼一方眼が、背後に人数を侍らしながら現れて

いる。

「くそっ、文覚め。よいところで、邪魔をしおって。だが、いい機会だ。

西行殿の敵、ここで討たせてもらうぞ」

 

鬼一方眼も言葉を返す。

「ふふう、逆に返り討ちにしてくれるわ」

「まて、まて」

 二人は構えようとしたが、騒ぎを聞き付けて、ようやく頼朝の郎党が、刀を

構えて走ってくる。

 

「勝負は後でだ、文覚」

鬼一は走り去る。

 

「わかりもうした」

文覚は、逃げていく鬼一方眼の集団にむかい叫ぶ。

 

「頼朝殿、しっかりされよ」

 文覚は、頼朝の体を揺さぶり抱き起こした。気を取り戻す。

「傷は浅手でございますぞ」

「文覚、今、儂は、義経の子供にあつたぞ」

「頼朝様、お気を確かに」

 

文覚は、あたりに転がっている頼朝を倒した石を調べてみる。石の表面がわ

ずかに濡れている。何かの染料か。文覚は石の先を木の枝で少し触り、その匂

いを嗅いでみる。

 

「くそ、鬼一方眼め、丹毒を塗っておる。いずれは吉次か、手下の鋳物師から、手

に入れよったか」

「はよう、大殿を、屋敷に」

 

文覚はあわてている。心中穏やかでない。

この時期に頼朝殿をうしなうとは、鎌倉の痛手となる。ましてやこの文覚がそだてた頼朝殿を、日本の統一を手にした頼朝殿を、、この手配は、京都の手のものか。ゆるさじ。

 

続く

20210426改訂

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YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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サブタイトル

源義経黄金伝説■第65回1199年(正治2年) 鎌倉 大江広元の屋敷に磯禅師がおとづれていた。静かの母、磯禅師は京都の総意をつげる。
本文

源義経黄金伝説■第65回

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 1199年(正治2年) 鎌倉

 

大江広元様、この鎌倉の政権をひぎたくはございませぬか」

磯禅師が告げた。

鎌倉広元の屋敷である。

 

鎌倉幕府成立後七年がすぎている、

あの静の舞からも十三年がすぎている。

 

大江広元が京都から鎌倉に来てすでに十六年が過ぎ去っていた。

 

「何を言うか。この鎌倉には、頼朝様が、征夷大将軍に任じられてとしてお

られる」

大江広元様、この鎌倉幕府の仕組みを考えられたのは、他ならぬ眼の前にお

られる広元様ではございませぬか」

 

 大江広元は世の仕組みを作る、言わば社会構造を考案し実行していた。

また法律という国の根本を考えだし、関東の武士たちに一定の秩序を与えたのは、

頼朝でははなくすべてこの広元の「さいづち頭」から出ていた。

 

つまり、広元が鎌倉幕府の全機構を考え出していたのである。

 

 

「さようでございましょう。王朝が変われば国の統一のために手助けした者、

武将、ことごとく新しい王のために葬り去られましょう」

「が、禅師、俺は武将ではないぞ」

 

「それゆえ、策略を巡りやすいとの考えもありましょうぞ。中国が三国時代のおり、諸葛孔明の例もございましょう」

 

大江広元は、考える。いかに禅師といえど、この考えは

 

「禅師、その考え、まさか、後白河法皇様の…」

「いえ、滅相もございませぬ。これは京の公家の方々の総意とお考えください

ませ。よろしゅうございますか、大江広元様。源頼朝様の動きを逐一お教えくだされませ。そして、もし機会があれば…」

「お主たち京の公家の方々が、大殿様を殺すという訳か」

 

「さようでございます。さすれば大江広元様、鎌倉幕府にてもっと大きな位置を占められましょう」

「それが私広元にとって、よいかどうか」

 

「何を気弱な。よろしゅうございますか。頼朝様亡くなれば幕府は、烏合の衆。大江広元様が操ることもたやすうございましょう」

「所詮、北条政子殿も、親父、北条時政殿も伊豆の田舎者という訳か」

 

磯禅師は、にんまりとうなずいた。

 

(続く)

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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源義経黄金伝説■第64回・鞍馬山で鬼一法眼が育てていた義経の子供「源義行」は叔父である源頼朝への復讐を誓う。

YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第64回・鞍馬山で鬼一法眼が育てていた義経の子供「源義行」は叔父である源頼朝への復讐を誓う。
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源義経黄金伝説■第64回 

 

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 1199年(正治2年) 京都・鞍馬山

 

 鞍馬山は、京都市中よりも春の訪れが少しばかり遅い。

僧正谷で武術修行にうちこむ二人の姿があった。

老人と十二才くらいの童である。

 

鬼一法眼が手をとめて、「源義行」に話しかけてた。

「和子は、このじいを何と思うておられる」

「どうした、じいは。いつものじいではないのう」

幼い義行にとって、鬼一は年をとった父親のようであった。不思議そうな顔を

して、義行は、鬼一の方を見る。

 

「よいか、よく聞いてくだされ。わしも、もう長くは生きられぬ。そのため真

実を申し上げる。和子は源義経殿が和子にござます」

鬼一法眼は、深々と頭を下げる。びっくりする源義行だった。

 

「この私が、あの、源義経の子供だという、、、」

 

源義経が奥州平泉で襲撃されて十年がすぎている。

義行は、義経がことを、日々の勉学に聞き及んではいた。

 

「この私があなた様のために、亡くなられた西行法師殿より預かっているもの

がござる。それをお渡しいたしましょう。また和子の存在を知っている者が、京に一人おられた」

「おられたと。その方も…」

 

「そうです、七年前にお隠れなられた後白河法皇です。その方の指令がまだ生

きておる。源頼朝をあやめられよと」

 

源頼朝をあやめると…」

 

「じゃが、よーく聞いてくだされ。源頼朝殿を殺すも殺さぬも自在です。なぜなら、この鬼一法眼、全国に散らばる山伏の組織を握っております。和子を鎌倉に 行かせるは自在。が、西行殿、そして義経様が義行様に望んでおったことは、和子が平和な一生を終えられることです。また平和な郷を作られることです。この 書状には奥州藤原氏よりの沙金のありか書いてございます。これをどう使われるかは、和子が自由でございます」

 

「鬼一法眼殿、私はどうすれば…」

突然、突き付けられた事実に、義行はたじろいでいる。

 

「どうするかは自分でお決めなされ。自分の生涯は自分で決めるのです。義経

殿が滅びたは、自分の一生、自分で決められぬほど、源氏の血の繋がりが強か

った。和子はそうではござらぬ。つまりは、和子は世に存在しない方。自

由にお考えなされい」

 

「……」

「が、義行さま、西行法師殿のまことの黄金は、あなたさま…。それほど大事に思われておったのです…」

「……」

「じい、決めた。私は父上、源義義の仇を討つ」

源義義の子供である源義行は、そう鬼一法眼に告げた。

 

「そのお考え、お変えになりませぬな」

 鬼一の眼は、義行の眼を見据えた。

義行の眼には、常とは違う恐ろしい別の者が潜んでいる。

「武士に二言はないぞ」恐れず義行は答える。

 

「わかりました。が、義行様、この先に進めば、二度とこの鞍馬山に帰ることはあいなりませぬぞ」

 

「何…この鞍馬には二度と」

「さようでございます。もし、源頼朝様を殺すとならば、義行様はこの日本に住

むことできますまい。なぜならば、鎌倉が組織、すでに全日本に張り巡らされ

ております。その探索から逃れることなど、絶対不可能」

 

「……」義行は急に黙り込んでしまった。

 

西行殿、許されよ。俺はお主との約束を破る。許してくだされい。俺は、

義行様が不憫なのだ。

鬼一はひとりごちた。

 

「なれど、義行様、安心なされませ。義行様をただ一人行かるじいではござい

ません。私の知り合いに、手助けを頼みましょう」

 

 鬼一法眼の屋敷は、京都では一条堀河にあった。

義経は、陰陽師でもある鬼一法眼から、兵書「六闘」を授かっていた。

 

 平安時代中期、藤原道長の霊的ボディガードとして有名だったのは、当時最

高の陰陽師安倍晴明であったが、彼の子孫は土御門家として存続する。この土

御門家に連なる一人が鬼一法眼であった。

 

 鬼一法眼は、自分の屋敷から白河に向かい、ある一軒のあばら家に入る。

 

 「おお、これは鬼一法眼殿、生きておられたか。伝え聞くところによれば、

貴公、奥州に行かれ行方不明と聞いていたが」

 

 のっそり出てきた優男は、京都で名高い印地打ちの大将「淡海」である。

「淡海殿、お願いがござる」

 

鬼一法眼が頭を下げている。突然の事に、淡海はめんくらう。

「これは、これは何を大仰なことを申される。法眼殿は義理の兄ではござらぬ

か」

「いや、ここは兄としてではなく、「印地打ち(いんじうち)の大将」にお願いしている客と思っ ていただきたい」

 

「俺の、印地打ちの力を借りたい、、と、、申されるのか」

 

「実は、儂の人生の締めくくりとして、ある人物をあやめていただきたい。と

いっても、儂は、手助けをお願いするのみだが」

「…、したが相手はだれぞ」

 

「鎌倉の源頼朝

「むっ…」淡海は唸ったまま、眼を白黒させている。

 

 白河は、別所と呼ばれる。別所とは、別の人が住むところ。昔、大和朝廷

日本を統一したときに、戦った敵方捕虜をそこへ押し込んだのであった。別所

は、大原、八瀬など、すべて天皇の命を受けて働く、別働隊の趣があった。し

かし、また、武者などの勢力から、声を掛けられれば働くという、傭兵的な要

素を持っているのである。

 

 淡海たちは、石つぶての冠者、つまり戦士であった。

 石つぶては、当時の合戦に使われている正式な武器だ。

 

「が、鬼一殿。相手が相手だけに、義兄さまの幻術も使ってもらわねば、難し

いのではないか」

「さよう、頼朝を郎党から一人引き離さねばのう」

「どのような塩梅か」

 

「気にするな。我が知識の糸は、鎌倉にも張り巡らしてござる。それも頼朝に

かなり近いところだ」

「おお、力が入っておるのう」

 

「よいか、義兄弟。この度の戦さは、儂の最後の戦さ。また、あの西行法師殿の弔い合戦でもある。頼朝を仕留めれば、奥州の沙金の行方を追うこと、諦めるだろう」

 

「それでは、一石二鳥という訳でござるな」

「そういうことだ。済まぬが、おの手の方々を、すぐさま東海道を鎌倉に下ら

せてくださらぬか」

 

「おお、わかり申した。色々な職業、生業に、姿を変え、鎌倉へ向かわしまし

ょうぞ。京都の鎌倉幕府探題の動き、激しいゆえにな。動きをけどられぬよう

にな」

(続く)

 

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源義経黄金伝説■第63回★★建久六年(一一九五)三月 奈良興福寺大乗院、宿にいる源頼朝の娘大姫のもとを、尼姿の静が密かに訪れてきた。

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源義経黄金伝説■第63回★★建久六年(一一九五)三月 奈良興福寺大乗院、宿にいる源頼朝の娘大姫のもとを、尼姿の静が密かに訪れてきた。
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源義経黄金伝説■第63回★★

 

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■ 建久六年(一一九五)三月 奈良東大寺

 

その夜、奈良興福寺大乗院宿泊所にいる大姫のもとを、尼姿の静が密かに訪れてきた。

「どうしたの、静。その尼の姿は、和子はどうしたの」

 

静は出家し、大原寂光院のそばにいおりをいとなんでいる。

すべては西行の手配りであった。

 

「和子は、私の手元にはおりません。今でも鎌倉でございます」

静には、わざと子供の行方を聞かされてはいない。

 

「何、鎌倉ですと。母上は約束を守らなかったのか」

「いえ、政子様は、こうおっしゃったのです。子供の命は助けると申した。

が、その子供をお前に預けるとは、言ってはおらぬ」

「では、和子は…」

 

「生きております。が、義経様に対する備えとして」

「人質として、が、義経様は亡くなったのでは」

「いえ、まだ、みちのくに生きているという噂、風の便りに聞きました。

頼朝様は、その噂が恐いのでございます」

 

大姫はしばらく口を噤んでいる。

 

「いいがなされました。大姫様」

「静、お前に会えるのも、これが最後かも知れぬ」

「何を心細いことをおおせですか。まさか…」

 

「その、まさかですよ。静、私にはお前のように心から強くはない。父上、母

上の顔を立てなければならぬ」

 

「お逃げなされ、大姫様」

「私は、もう生きる希望を失っています」

「…」

 

「ずっと昔、あの志水冠者しろうかじゃ殿が、父上の手にかかってから

というもの、私は死者なのです」

 

木曽義仲の息子であり、大姫の夫志水冠者は、頼朝の手で殺されていた。

 

1184年元暦元年4月の事でありもう十一年の歳月がすぎていた。

十一年の間、大姫はその姿を心にひきづって生きている。

 

「そこまで、もう長くは、私は生きていますまい。静、どうか私の来世を祈っ

ておくれ」

「大姫様」

二人の女性は、鎌倉の昔と同じように、両手を握りあわせ、各々の運命の苛

酷さを嘆きあう。

 

北条政子様、どうぞ内へ入られませ。あのお方がお待ちでございます」

磯禅師は、京都のとある屋敷へと、政子をいざなう。

 

「この方が丹後局様、皇室内のこと、すべて取り仕切られております」

無表情というよりも、顔に表情を表さぬ蝋人形のような美女が座っている。

流石の政子も思わずたじろぐ。底知れぬ京都の、連綿と続く力を背後に思わせ

た。

 

丹後局は、白拍子あがりだが、後白河法王の寵愛を受け、京と朝廷に隠然たる

勢力をいまでももっている。いわば後白河法王の遺志の後継者である。

 

「これは、はじめてお目見えいたします。私が北条政子源頼朝が妻にございます」

政子は、深々と頭を下げた。目の前にいる女に頭を下げたのではない。あく

までも京都という底力に対してだ。そう、政子は思った。

 

「磯禅師より聞いております。大姫様の入内のこと、すでに手筈は調っており

ます」

「え、本当でござりますか」

「が、政子殿。大姫様入内の前に、こちら側よりお願いしたき儀がございま

す」

「何でございましょう。私ごときができることでございましょうか」

 

「無論、お出来になるはず。源頼朝様にお力をお貸しいただきたいことがござい

ます」

丹後局は少し間を置いた。

 

焦らしているのである。

次の言葉が、政子には待ち遠しく思えた。

「それは、一体…」 思わず、政子の方から口を切っている。

 

「いえいえ、簡単なことでございます。征夷大将軍の妻たる平政子殿にとって

はな」

再び丹後局は黙り込む。京都の朝廷で手練手管を酷使している丹後局

ある。

 

丹後局は磯の禅師と同じ丹波宮津の出身だった。

交渉力においては、まだ新興勢力である北条政子の及ぶところではない。

 

「摂政、九条兼実殿を、罷免していただきたい」

 

「何をおっしゃいます、兼実殿を…」

九条兼実は、頼朝派の味方になった政治家だったのである。

 

北条政子が不在の折、興福寺大乗院前の猿沢の池で、頼朝と大姫は、舟遊びを楽しもうとしていた。

猿沢池の両側に興福寺、反対側に元興寺、両方の五重の塔が威厳を誇っている。

 

興福寺藤原氏の氏寺。元興寺がんこうじは、蘇我氏の氏寺である。

 

奈良猿沢の池を中心に奈良平城京ができた折りの政治状態が反映されている。今また新 しい新興勢力である鎌倉源氏が、この奈良古京こきょうに乗り込んで自らの政治勢力を固持している。

 

かがり火が、こうこうと照らされ、興福寺五重の塔が照り映えている。

この船遊びは、気鬱の大姫のために頼朝が考えたのだ。

 

が、池の舟のうえで、事はおこる。

 

「よろしゅうございますか、父上。大姫はもう、この世の人間ではございませ

ぬ」

 

湖の周りには、奈良以来の雅楽が演奏されている。空気はぴんと貼りつめ、篝

火の届かぬ空間のその闇は深い。

 

「大姫、何を急に、、おまえは狂うたか」

頼朝は、我が娘を別の目で見ている。篝火に照りはれる大姫の顔は尋常では

ない。

「狂っているのは、父上の方です。私は、私です。お父上の持ち物ではござい

ませぬ」

「むむっ、口答えしよって」

 

「私は、いえ私の心は、志水冠者様が、父上によって殺された時から、死んで

おります」

大姫は舟の上から、体を乗り出している。

 

「いとおしき志水冠者様、いまあなたの元に、この大姫は参り増すぞ」

「大姫、何をする」

「いえ、父上。お止めくださるな。父上が静の子供を死なしたようにするので

ございます」

 

言い終わると、大姫の体は、波の中に飲み込まれていた。

 

「ああ、大姫」

 源頼朝かいなは、空をつかむ。

重りをつけた大姫の体は、猿沢池底の闇に深く巻き込まれている。

頼朝の両手は届かなかった。大姫の心にとどかなかったのと同じように。

 

「さあ、お言いなされ、母上。何を大姫様におっしゃったのですか」

静は母親、磯の禅師を非難している。

「この子は、何を急に、言い出すのか。大姫様が、いかがいたした」

 

「母上、私は、幼き頃より、母上の身働きを存じております。それゆえ、この

度、大姫様が入水自害をされた…」

 

「何、大姫様が入水自害された…」

禅師は驚いた表情をする。呆れ果てたように、静は告げる。

「それほど、大姫様が憎うございますか」

 

「何を申す。これは源頼朝殿を滅ぼさんがためぞ。お前、義経殿を殺させた、源頼朝殿が憎くはないのか」

 

禅師は厳しい表情をし、声をあらげている。

「そ、それは、義経様を…、殺させた頼朝殿は憎うございます。が、大姫様を

なぜに殺された」

 

「愛姫だからのう。それに、頼朝殿の血が、京と天皇家に入内せしこと防がねばなりません」

「それは、京都の方からの指令でございますか」

禅師は答えぬ。

 

(続く)

 

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