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義経黄金伝説●第33回

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義経黄金伝説■第33回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
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第5章 1187年 押し寄せる戦雲

■3 1187年文治3年 鎌倉
    
 秀衡死亡の知らせは、早馬で鎌倉にも伝わっている。
「どうやら、秀衡殿、お亡くなりになった様子でございます」
大江広元が頼朝に告げた。
「そうか、とうとう亡くなったか」

 広元には、頼朝が何やら寂しげに見えた。好敵手を失った寂寥感かも知れ
なかった。大江広元にとっては、千載一遇のチャンスに思える。
その時期を逃しては、平泉王国を滅ぼすことはできまい。気が抜けたように
なっている頼朝を、勢いづけなければと思った。
「いよいよ、奥州攻めも近うございますな」
「いや、まだ先になさねばならぬことがある」
「それは…」
「わからぬか、広元。義経は平泉王国の大将軍となっておる。平泉が義経
元、一致団結をしておれば、我々も恐ろしいわ。あやつの戦ぶり記憶していよ
う。戦ぶりでは、残念ながら、この日本一の武者よ」
「それに十七万騎の奥州の馬があれば、恐ろしゅうございますなあ」
 よくよく考えれば、まだ平泉王国は、強固なのだ。
「そこで、考えよ。どうすれば、よいかをな」

「内部をもっと分裂させますか」
広元のお得意の策諜を使わねばならない。
「そうじゃ。義経さえ、差し出せば、奥州の地を安堵しようとな。そういう書
状をしたためを使者に持たし奥州の泰衡のもとに出そう。
のう広元、奥州藤原秀衡平清盛よりも恐ろしかったわ。俺の誘いに全く乗ら
ぬ」
 広元の目には、頼朝の体がやや震えているように見えた。気のせいだろう
か。それに…、広元は気に掛かることを告げた。
「例の黄金の件は、いかがいたしましょう。まだ、わが鎌倉の手元に…」
「そのこと、うちやっておけ。秀衡さえ亡くなれば、奥州すべての黄金は、我
が鎌倉のものとなる。大事の前の小事じゃ」
東大寺が、文句をいいますまいか」
 京都のことなどをもう気にせずばなるまいと、広元は考える。それに関して
は、頼朝の方が一枚上手だった。

「何の届かなかったことにすればよいであろう。そうじゃ、黄金を、この頼朝
からの贈り物としよう。鎌倉幕府の将軍として、京都へ、また南都奈良に赴か
ねばならぬからのう」
「それは、また京朝廷への大姫様のお披露目ともなりましょう」
 そのことも広元にとっては、忘れてはならなぬことだった。頼朝がどうであ
れ、京都とのパイプは繋いでおかねばならぬ。強固にしておかねばならなかっ
た。この鎌倉幕府を完全に支配し、京都に向かせればならん。

「そういうことじゃ。きらびやかに飾り、坂東の田舎者と思われている我々
が、美しく着飾った姿形を、京都の貴族どもや民に見せてやろうではないか」
「さようでございますなあ」

それには、広元も同じだ。うだつのあがらない京都の貧乏貴族の俺が、新しい
治世者の一人として、都大路を従者を多数連れ、行列として練り歩けるのだ。
今度は、私が、京都の皆を羨ませる番だ。広元は、自らもきづかずに、昔の
傷あとをなでていた。
その額の傷は、往時の義経の凱旋行列を思い起こさせていた。
(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
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