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山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

ロボサムライ駆ける■第四章 剣闘士(5−1)

ロボサムライ駆ける■第四章 剣闘士(5−1)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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第四章 剣闘士

第四章 剣闘士(5−1)
「姐さん、よい眺めですぜ。さすが徳川様の空軍飛行船てわけだ」
 鉄が飛行船の窓から眺めている。
「まあ、鉄、いい年をした大人ロボットが、それほどよくはしゃげるものですねえ。飛行船に乗ったというくらいでねえ」
「だって、姐さん、私しゃこう見えても、空を飛んだのは初めてなんですよ」
「さようですか、よく高所恐怖症じゃなかったことですね。それに私たちは、これから物見遊山に行く訳じゃないのですよ。西日本のロボットと、ひょっとしたら戦わなきゃいけないんですからねえ」
「戦いですって。ああ、胸が高鳴りまさあ。おまけに姐さんの前で、いい格好ができるなんて、最高じゃありませんか」
「鉄さん、あなた、ひょっとして、私に惚れてる訳じゃないでしょうね」
「ね、姐さん。何を言い出すんですか。姐さんがだんなの内儀だってのはよくわかっていまさあ。ははあっ」
 と笑いでごまかす鉄。
「そうですか。それならいいんですけれど。あなたのはしゃぎの一因は、私と旅行できるからではないかと考えましてね」
「そりゃないですぜ、姐さん」
 内心ドキッとする鉄。といいながらも、顔を赤らめる鉄であった。
「大変です」
 ドアをノックして、徳川空軍の佐久間大尉が入って来る。
 空軍の軍服は空色のモンペ服の上に陣羽織を羽織っている。肩章には階級が示されている。また、背中には三つ葉葵が白で染め抜かれていた。
 佐久間は面長で彫りの深い顔をしていた。どうやら徳川公廣の親戚筋らしい。
「どうかいたしましたか、佐久間大尉」
「現在、本船は西日本と東日本の境界近くまで飛行してきておりますが、敵が現れました」 佐久間は顔を高潮させていた。
「敵だって、そいつはいけねえや」
 鉄が起き上がり、片腕をまくりあげた。
「気の早い人ですね。空のうえで殴り合う訳じゃないんだから、なんですか、その腕まくりは」
「すみません、つい、地の上の戦いと間違いまして」
 鉄はぼりぼりと頭をかいていた。
「ともかく、お二人とも操縦室のモニターをご覧ください。どうぞこちらへ」
 佐久間は二人を案内する。二人は佐久間に従い、通路を歩む。
「鉄さん、うれしいでしょう。コックピットを見せてくれるんですからね」
「そりゃ、うれしいでさ。願ったり叶ったりとはこのことだ」
「鉄さん…」
 いいながら、急にマリアは立ち止まり、鉄の顔を見た。
「何ですか、姐さん」
 何事かと期待してマリアを見返す。
「では戦いが始まったら、あなたの男っぷりてものを見せていただけるのでしょうね」
「がってんしょうちのすけでえ」
 佐久間大尉は鉄の様子を見て首を竦めた。こいつはだいじょうぶかという顔付きである。「どうぞ、こちらです」
 ドアを明けた。コックピットに入る。たくさんの徳川軍の空軍兵士が働いている。
「うわっ、思っていた以上に広いや。ねえ、姐さん」
 鉄が突拍子もない声を張り上げて、片手で額を打った。
「うるさいですわねえ、私はヨーロッパから日本へ来たとき、小型気球に乗ったり、飛行船に乗ったりして、うんざりしているのです」「どうぞ、あれが敵の姿です」
 佐久間大尉が操作卓の上にあるモニターテレビを指し示した。
「何だ、ありゃ」
「どうやらタコのようです」
 佐久間の間の抜けた返事である。
「タコだって、タコってのは海の底にいりゃいいものおよ」
 鉄は強がっていた。軽量で張力のある高密度繊維で編み上げられたタコが、境界線上にずらっと揚げられていた。西日本都市連合があげているタコだ。上空からの侵入を防ぐためらしい。
「姐さん、何かタコの下に見えますぜ」
「何かの重しでしょうね。見せていただけますか、佐久間大尉」
 その物体に飛行船の監視カメラがズームした。
これはひどいですねえ…」
 思わず顔の表情が強張るマリアだった。
「こいつはあんまりだ」
 鉄も表情が変わった。
 国境から逃げようとしたロボットの首が、各々のタコの飾りにつけられているのだった。「数枚のタコには、どうやらロボットが乗っているようです。しかもロボ忍です」
 佐久間大尉が告げた。
「おもしろいじゃないですか」
「たぶん、あやつらは、この飛行船の気球部分に爆発物を飛ばすつもりでしょう」
 佐久間が述べた。
「それじゃ、あやつらに、火器じゃなく、火気厳禁と言ってやらなきゃなりませんねえ」「鉄さん、あなた…何を。私の怒りが爆発しますわよ」
 たしなめるマリア。が、しゃれを言った鉄に、コックピットの全員から、冷たい視線が投げ付けられた。
「へい、どうもすみません」
 縮こまる鉄。
「さあ、ここが正念場ですよ、鉄さん。あなたに働いて貰いましょう」
 鉄にとっては目が覚めるような言葉だった。「ええ、姐さん、私が何を」
「こちらもタコを飛ばすのですよ」
 にっこりしながら言うマリア。
「それで、まさか…」
 悪い予感が鉄の頭をかすめる。眼を白黒させる。
「そうです、その通りです。あやつらのタコを叩き落としてほしいのです。何、すべてを落とせと言うわけではありません。この飛行船の通る範囲内でいいってことです」
 当たり前のように簡単に、マリアは言う
「無茶だよ、私しゃ、高所恐怖症なんですよ」 鉄は冷汗をかいていた。
「さっきはそうは言わなかったでしょう。ほら、落ち着くために特別の機械茶を飲ましてあげるますから、がんばって」
「もし、私の乗ってるタコが切られたら」
 鉄は、タコの落ちる姿を想像し、がたがた震えている。
「そりゃ、あなたごと落ちるでしょうね」
「ね、姐さん。本当にわたしに戦えっていうんですかい」
「当たり前じゃないですか。いいですか、鉄さん。あまり動くんじゃないですよ。縛れないじゃないですか」
 鉄の体はタコに縛り付けられていた。
「いいですか、空軍のだんな方。絶対タコの糸を切り離さないでくださいよ」
「おお、心得ておる」
 鉄と対照的に、話の経緯に、にこにこしながら答える兵士たち。
「で、お助けをしてくださらないんで」
 鉄は足をがくがく痙攣させながら、マリアや空軍兵を一通り見渡した。皆知らぬ顔である。
「貴公、一人で充分だろう」
 佐久間空軍大尉が言う。
「鉄さん、震えているんじゃないでしょうね」「え、姐さん、こいつは武者奮いって奴で」「それじゃ、いいかですか。そうれ。外ですよ」
 鉄の乗ったタコは飛行船から押し出される。「ま、まってくだせえ。まだ心の準備があ…」 言葉を言い終わる前に、鉄はタコごと空中に浮遊していた。
 真下は関が原らしい。雲の間から復旧しつつある東海道がぼんやり見えた。
「いっ一体、どうやって動かしゃいいんだ、これは」
 鉄は独りごちた。
『鉄さん、早く敵の方へ行きなさい』
 耳のレシーバーから、マリアの声が入って来た。
「あっ、姐さん。姐さんの声を聞けるだけでも、たくましい限りだ」
『いいから。ほら、奴らの方が、もうやって来ていますよ』
 そういっているうちに、鉄のタコのまわりを、ロボ忍のタコが囲んでいた。
「や、やい。俺を誰だと思っていやがるんだい。東京じゃ、ちょっと知られたお兄さんだぞ」
 ひびりながらしゃべる鉄。相手のロボ忍が笑いながら言う。
「ほほう、威勢だけはよいのう」
「あ、あっしの頭を聞いて驚くな。早乙女主水のだんなだぞ」
「何、早乙女主水だと」
 ロボ忍の数人が、あきらかに顔色が変わっていた。
「どうだい、驚いたかい」
 鉄はいばるが、逆効果だった。相手の様子が険しい。
「早乙女の使い番とあらば、尚のこと、生かしてはおけぬ」
 逆にロボ忍の殺意をたぎらせてしまった。「旦那は評判悪いねえ。いや、その、あの、生かしてはおけぬなんて。もちょっと…」
 慌てて、何とかごまかそうとする鉄。
「各々方かかれい」
 ロボ忍の一人が命令する。
「助けてくれ」
 鉄はとうとう悲鳴を上げていた。悲鳴にもかかわらずタコが近づいて来る。刀を動かす音が数秒続く。鉄は思わず、目を瞑った。
「うっ、ややられた。おいらもここで終わりか…。早乙女のだんな、許しておくんなさい。鉄は役に立ちませんでした」
「本当に役立たずですよ。鉄さん、目を開けてご覧なさい」
 マリアの声だった。目を開く。まわりのロボ忍は、すべて倒され、タコの上でぶらぶら動いている。目の前にマリアが浮いている。「こりゃ、一体、マリアのお姐さんが」
「当たり前ですよ。私のサーベル『ジャンヌ』の錆になっていただいたのです」
 マリアは小型のジェット推進機を背中に背負っている。愛用のサーベル「ジャンヌ」を手に持っていた。
「あ、あっしは餌って訳ですかい」
 鉄は気づいた。
「そういう訳ですよ」
「そいつは姐さん、あんまりだ」
「何いってるのですか。お陰でロボ忍を片付けられたのですよ」
 徳川空軍・飛行船は、西日本都市連合の領土に入っていた。
    ◆
「さて、さて、松前さん。あなたはどの試合に出るつもりですか」
 御用商人大黒屋は、主水相手にどんどん話を広げていく。大乗り気なのである。
「いやいや剣闘士といっても、日本武道のことです。いろいろなコースがある。相撲、弓道、剣道、槍術、薙刀、鎖鎌など。なんでもござれだ。それにこの特殊技術を練習する道場があるのですよ。道場の経営は西日本都市連合が当たっておるから、心配はしなくてもよろしいですよ。そこらの偽者の「ロボット道場」とは違いますからね。さあ、どれを選びなさる。ロボット空手か、あるいはロボット柔道か。またはロボットレス(ロボットレスリング)か」
 大黒屋は顔を真っ赤に興奮している。
「大黒屋どの、やはり私は…」
 冷たく断ろうとする主水だが、
「何を選びなさる、思うとおりおっしゃってくださいな」
 とうとう大黒屋に押し切られる形となった。

(続く)
ロボサムライ駆ける■第四章 剣闘士(5-1)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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