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山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

地下道1949■第3回

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地下道1949■第3回
飛鳥京香・山田企画事務所・1978年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・Manga Agency山田企画事務所

地下道1949■第3回


「さあ今日の取り分だ」
 竜は顔をみわたしながら、目の前につみあ
げられた物資をわけ始めた。彼らは十才をい
くつも越えてはいない浮浪児達だ。竜は波らの主領である。              
 自らの力で食物や闇物資を手に入れたのだ。
恐喝、かっぱらい、強盗、その他いろんな呼び方がある。
この時代とこの場所で生きのびていくための手段であった。
 竜のアジトであるはっ建て小屋からも焼け果てたトウキョウ市の新しい壁が見えている。
  その壁は日本人に希望を与えるものでは忿日本人の心と休を。いわゆる本土決戦
以上に疲弊させるものだった。

  竜は本土決戦当時は、新潟県疎開していた。
そこで愛国少年団に属していた。
赤い星をつけたソ漣軍のT.34戦車が進撃してきたのは昭和二十年十月三
日。
 ポツダム会談でトルーマン大統領はスターリンに圧倒されたのだ。
アメリカ、ネパダでの原爆実験の失敗がそれに追いうちをかけたのだ。
しぶしぶ、トルーマンは、ソ連軍の対日本戦参戦を認めたのだ。
チャーチル以下イギリス軍の反対も、アメリ参謀本部の反対も押しきられていた
。あのグルジア人ヨーゼフのずるがしこいほほえみに。

そして、日本の運命が変わった。

 北海道、東北の海岸は、欧州戦線からシベリア鉄道を経由して
大急ぎで輸送されたソ連軍の艦隊老上陸用舟艇で埋め尽された。
少しでも多くの土地を。そして日露戦争の敵を!

 竜の兄は沖縄で特攻隊として出撃していた。
お別れに、兄はお守りを竜と恵にさずけた。
 兄は消息不明といなったが、竜と恵はそのお守りを後生大事に
にしていた。
 疎開先の校舎はふきとばされキャタピラで、人体と建築物が
混じり合い押しうぶされた。機関銃や爆撃、大砲、嗚咽、叫び、悲鳴で
あたりは充満していた。まさに地獄だ。
鮮血をニイガタの大地に流し、友達は殺されていったのだ。
竜や恵には特特の人生観というものが形成されていった。

 竜と恵がトウキョウ市にたどりつけたのは、僥倖と呼ぶより他はない。

やがて日本は連合軍に全面降伏した。
日本全土は廃虚と化していた。
アメリカ軍とソ連が分割占領を行なった。

 机の上にトカレフ挙銃が傲いてある。
「誰の獲物だ。これは」
 竜はまわりの皆を見渡しながら、尋ねた。
「俺さ」
鉄だった。鉄は使いなれたナイフをいじくりながら答えた。
皆の目が鉄に注がれる。
 以前にも、鉄はコルト45をアメリカ保安部隊からくすねてきたことがある。
鉄はこのグループの中でも、このあたり一帯でもー目おかれる存在となっている。
それは、小さな社会にさざ波を起す。つまりは、グループの長としての竜の地位を
もおびやかしていることになる。

 鉄はナイフに関して天賦の才をもつ。
それゆえ、あだ名が「ナィフのー鉄」

「この地区にきた露助からとりあげたものだ」
 鉄はロシア製の苦いタバコをくゆらせながらつぶやいた。
「その挙銃と一緒に、そのカパンもいただいたのさ」
 鉄は、うす汚れた黒革のダレス型鞄を指さした。
「どうせたいしたものははいっていないと思うぜ。米ソ定期会談に来ていた奴かもしれない。

「とにかく中をしらべてみょう。」
 仲間の一人が、カパンのキーをいじり始めた。
 突然銃声がした。
一瞬全員が身がまえる。
鉄だった。カバンのカギがふきとんでいる。
「この方が早いさ」
「この野郎、おどかしやがって、ここをどこたと思っているんだ。」
 誰かがどなる。
「竜のアジトさ。遠うかね」
「俺のやり方に文句でもあるのか、鉄」竜がなじった。
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・Manga Agency山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 「マンガ家になる塾」ドリル