yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

義経黄金伝説●第2回

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義経黄金伝説■第2回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
http://www.geocities.jp/manga_ka2002/

第1章 一一八六年 鎌倉八幡宮 2
 文治二年(1186)四月八日(承前)


 しかし,今、舞台真正面にいる頼朝の心は別の所にある。
 頼朝は、2つの独立を画策していた。ひとつは、京都から
の独立、いまひとつは、階級からの独立である。武士は貴族
の下にいつまでもいる必要がない。とくに、東国では、この独立の意識が強い
のだ。西国からきた貴族になぜ、金をわたさなければいけな
にのか。だれが一番苦労しているのか。その不満の上に鎌倉
は成り立っている。しかし、義経は、、あの弟は、、義経
人生において、常に逃亡者である。自分の居場所がない。世の中には彼に与える場所がない。義
経は、頼朝が作ろうとしている「組織」には属することが不
可能な「個人」であった。その時代の世界に彼を受け入れて
くれる所がどこにもない。

 頼朝はまた平泉を思う。頼朝に宿る源氏の地が奥州の地を
渇望している。源氏は奥州でいかほどの血をながしたのか。
頼朝は片腹にいる大江広元(おおえひろもと)をみる。土
師氏(はじし)の末裔。学問を生業とする大江一族。頼朝
は京から顧問になる男を呼び寄せる折、あるこだわりを持
った。なぜなら、彼の曾父は大江匡房(まさふさ)。博学
の士。八幡太郎義家に兵法を伝授し、奥州での勝利を確約したといわれている。頼朝はその故事に掛けている。奥州との
戦いのために学問の神、大江家が必要だったのだ。さらに
別の人物頼朝は眺める。文覚は十年前、後白河法王の密命を受けてきた荒法師で、
が今は頼朝の精神的な支えとなっている。皮肉な運命だっ
た。法王はそこまで、頼朝が大きくなるとは考えてなかった。
 その想いの中を歩む心に、声が響いて、頼朝はふと我にかえる。

「しずや、しずしずのおだまき繰り返し、昔を今になすよすがなる。吉野山
みねの白雪踏み分けて、入りにし人の跡ぞ恋しき」

 ひらひらと舞台の上に舞い落ちる桜吹雪の中、静は妖精のようだった。人間ではない、何か別の生き物…。
 思わず、頼朝をはじめ、居並ぶ鎌倉武士の目が、静に引き寄せられていた。
感嘆の息を吐くのもためらわれるほど、
 それは…、人と神の境を歩んでいる妖精の姿であった。
  

あの女、手に入れたい。頼朝はふと思った。たとえ、義経の思いものであったとしても…。
 義経の女の趣味は良い。誉めてやりたいぐらいだった

頼朝は今でも心のうちは、京都人である。京都の女が好
きなのであった。この田舎臭い鎌倉近辺の女どもには、あきあきしている。が
、そのあたりには、異常に感の鋭い政子のために、今までにも、散々な目にあ
っている。いままた、頼朝はちらりと…、横目で政子の方を向く。視線がばっ
たりあう。

いかぬ。
政子はその頼朝の心を見抜いているかのようだった。が
、政子は、そんな頼朝の思いを知らぬげに、静の舞に見ほれている。よかった
。感づかれなかったかと、頼朝は安心した。

 政子の思いは別のところにあったのである。北条家・
平政子は、この日本のファースト・レディになれたという自負もあり、肌色も
よく、つやつやしている。新しい阪東独立国が、京都の貴族王朝にもかなわぬ国
が、我が夫、頼朝の手でなったのである。うれしくないはずはない。
 義経のことは、気にならなかった。「静」という、コマを手に入れているのだから。それに静の体には。
「ふふう」と、思わず政子は笑った。

 大殿もそのことはご存じあるまい。せいぜい、京都から来た白拍子風情に、うつつを抜かされるがよい。私ども、関東武士平家の北
条家が、この日本を支配する手筈ですからね。あなた、大殿ではない。

誇りが、政子の体と心を、一回り大きく見せている。頼朝はある種の恐れを、我妻、政子に感じている。
やがて,後に政子は、日本で始めて、女性として京都王朝と戦いの火蓋を切るのだが、その胆力は、かいま見えているのだ。

 この政子と頼朝に共通している悩みと言えば、それは…愛娘大姫のことであった。
舞台上の静なりの元気さ、あるいは華麗さを見るたびに、比較して打ちし抱かれたようになっている大姫の心の内を思い悩む二人であ
った。

 その問題は二人の、この鎌倉の内にたなびく暗雲である。
 大姫はうつむきかげんに静の舞いを見ている。

舞台を見て嗚咽が会場のあちこちに広がっている。
静は、、見事である。それが、武士達にとっての正直な感想であろう。
いわば敵に囲まれながら、どうどうと義経への恋歌を歌うとは、、
歌姫・白拍子・女の戦士としては、静は十分にこの鎌倉の戦場で勝利をおさ
めようとしていた。

大江広元(おおえひろもと)は、これから奥州平泉を攻めようとする頼朝にと
っては勝利を確約する、いわば勝利の女神であった。なぜなら、大江広元の曾
祖父は、奥州攻略を成功させた八幡太郎の知恵袋だったのである。いわゆるプ
ランニングマスターである。占いの専門職。占いはこの時期の総合科学であ
る。
その大江広元は、現状に恐怖を感じて青ざめている。このままでは、静は、会
場にいならぶ鎌倉武士を味方にしてしまう。大殿はいかにと、頼朝をかいま見
る。

政治顧問である,荒法師の異名をとる文覚(もんがく)でさえ、静の舞に内心
は心動かされていた。文覚は若い頃、北面の武士の折、色恋沙汰で殺傷事件を
起こしている。感情の高ぶりをおさられないのである。この感情の濃さがいい
具合に発露すると、それが、勧進となった。また、頼朝に対する挙兵のアジテ
ーターであった。いわば、頼朝のメンターである。頼朝とは幼き頃、朝廷で顔
を見知り置いている。その後、文覚は数々の荒行をこなし今は、江ノ島で、藤
原秀郷の呪殺を、頼朝から依頼され、とり込んでいる。

先年、後白河法皇から許可を受け、京都から、頼朝の父、義朝の遺骨を発見し、
クビからぶら下げ、東海道を下るという鎌倉人のパーフオマンスを行い帰って
きたばかりである。この義朝の骨を収めし寺の名は、勝長寿院・大御堂という。

骨の髄から、頼朝は、平泉を恐れている。
16万の軍旗が、義経という天才に率いられて鎌倉を背後から、また海から襲っ
てくる事。おそらく、この日本で、義経は最高の軍事指揮官であろう。それは
頼朝もいらなぶ、坂東武者もわかっている。傍らに控える大江広元も、文覚も
理解しているだろう。この鎌倉の勝利はまさに義経のおかげである。
そのため、義経のおもいものである静が、ここで、頼朝に対して恭順の意いを
著わすべきであった。
が政子が、、意図と違う事を、わずかながら、意思の疎通がうまくいかぬ。

当時最大のネゴシエイターである「西行」が、この鎌倉を目指していると文覚から、聞
いている。京都王朝で、始めて伊勢神宮と、東大寺の手を握らせた男。
後白河法王の意図で動く男。そして義経とも、平泉とも、近しい。この坂東で
も、佐藤家の威光は輝いている。
加えて、当代一の詩人・この文学的功名は、京都貴族の中において光り輝いて
いる。いわば京王朝のエースカード。ジョウカー。
また、平泉にとっても最強の交渉カード。まして、民衆の指示を受けつつある
重源(ちょうげん)の友人。後ろには結縁衆。恐らくは東大寺を始めとする京宗教集団の力も。意図は
何か。西行は1万の武装集団よりも怖い。頼朝はそう思った。

源氏は鉱山経営と関連が深い。祖先・源満仲は、攝津多田の庄(現・兵庫県川西市)の
鉱山経営の利益を得ている。能勢・川辺・豊島三郡における鉱脈を支配し、最
盛期2000を越える抗を穿っていた。鉱山の警備隊として武士団を養い、鉱
山経営のうまみを知った源氏は、その後、京都大江山鉱山の利権も手にした。
いわゆる大江山鬼退治の伝説である。つまり、源氏一族は、血の記憶として,
鉱山経営のうまみをしっている。

目指すは、征服すべきは、奥州金山である。源氏の護り神、八幡神は、産銅・産鉄神である。
源氏の最終目標は奥州。また、そのためにも、鎌倉を中心とした独立運動はまも
らねばならぬ。東国王朝打倒は、源氏の悲願である。奥州平泉王朝を打
ち倒す事。それぞれの思いの中、やっと頼朝は、言葉を発した。
(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
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