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山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

義経黄金伝説●第5回

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義経黄金伝説■第5回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
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第1章6 一一八六年(文治2年) 鎌倉
■■一一八六年(文治2年) 四月七日。鎌倉。静の舞前

 静の母、白拍子創始者磯の禅師(いそのぜんじ)
が頼朝の御台所、北条政子(ほうじょうまさこ)に呼ばれている。
「よろしいか、禅師殿。このたびの静(しずか)殿の舞
にて、頼朝殿の心決まりましょうぞ」
「舞とは…」
 禅師は、娘の静とは、しばらくの間会っていなかった
。いや会えるはずがなかった。静は義経の行方を調べるために、獄につなぎおかれたのだ。
「その舞に頼朝殿への恭順の意を表されれば、頼朝殿も
お考え改めましょう。
それに私が内々のうちに、静殿の和子生かす手立て考え
ましょう」
「ありがとうございます。このご恩、決して忘れませぬ

 禅師はまた床に、はいつくばった。その頭上から政子
の冷たい声が聞こえた。
「よろしいか、宮中への事、大姫のこと、くれぐれも…

「わかりました」
禅師は深々と頭をさげた。

■■一一八六年(文治2年) 四月八日鎌倉。静の舞当日 

その思いにふける禅師の前で、ようやく静の舞は終わり
、舞台の袖にいる禅師の方へ戻って来るのが見えた。
 磯禅師が静を問い詰める。
「静、なぜお前は、この母の言うことを聞けぬか」
 激しい口調である。
「母上、私はあの義経様に愛された女でございます。私
にも誇りがございま
す」
義経殿の和子を、危険な目にあわせても、私の言葉を
きかぬのか」
「それは……」
静は言葉に詰まり、涙ぐんでいた。
「もう、いかぬ。残る手だてはあの方か……」
 禅師は、期待するような眼差しで、観客席の方を見や
る。頼朝と政子は退席しようとしていた。頼朝の怒りが、禅師には手に取るようにわかった。諸公の前で、笑い者にされたのである。頼朝はプライドの高い男なのだ。それがあのような形で…。

■■一一八六年(文治2年) 四月七日。鎌倉。静の舞前

 政子を訪れた同日、磯禅師は大江広元(おおえひろも
と)屋敷を訪れている。
「よろしい、広元の一存じゃが、禅師殿、静殿の生まれ
た和子、私に手渡してくれ」
「和子をどうなさるおつもりですか」
「よいか、義経殿、すでにもう平泉に入っているやもし
れん。秀衡殿と示し合義経殿が、この鎌倉へ軍を進めたときの人質に、その静殿の和子がなろう」
「和子を人質になさる……」
 禅師の顔色が変わっていた。そのような、人質だと。
「どうした、我が処置に不満か」
 広元は強気で禅師を追い込む。広元としては、万全の
方策をとっておきたかったのである。今や、鎌倉の中枢は広元が握っている。
「いえ、そのようなこと」
 禅師は、ここは広元の話に乗って置く方が善策と考え
た。
「よろしいか、禅師殿、和子を助けるだけでも、ありが
たいと思い下されよ」
と、広元は押し付けがましく言う。が、その時、禅師は
、別の人物に話す言葉を考えていた。

■■一一八六年(文治2年) 四月七日。鎌倉。静の舞前

同日、磯禅師は、源頼朝と関係深い勧進僧(かんじんそ
う)文覚(もんがく)の前にいる。
「文覚殿、お願い申し上げます。どうぞ義経殿の和子生
き残れますよう、お力をお貸しください」
「禅師殿、わかり申した。この文覚、いささか頼朝殿と
は浅からぬ縁がござる。この伊豆に源氏の旗をあげさせ、決起するもとを作ったのは拙僧でござる。まかされよ、頼朝殿の心を反してみましょうぞ」
「よい話でありがとうございます」
 禅師と文覚がふと目が会う。お互いが、今の言葉から
おこる出来事を考えているのだ。

■■一一八六年(文治2年)四月八日。鎌倉。静の舞当日
「大姫(おおひめ)様、あなた様のお気持ち、この静は
わかります」
静は舞いの後、大姫の前に呼ばれている。
「まて、姫のおん前であるぞ。直接お話を申し上げると
は何事だ」
 警備の武士が静を引き離そうとする。
「よい、静の好きにさせるがよい。それが大姫がためじ
ゃ」
 政子が許しを出した。
「大姫様、志水冠者(しろうかじゃ)様のこと、それほ
どお思いでございましたか」
 志水冠者は木曽義仲(きそよしなか)の息子であり、
頼朝の命で殺されていた。
 志水冠者の名が静の口から上ると、大姫の嘆きは一層
激しくなるのだった。
「わかります。大姫様、お泣きなされ。それしか、方法
はございますまい。この私とて、義経様には恐らく二度と会うことなどできますまい。いっそ死んでしまいたいくらいです。が、私には、義経様の和子の命が宿っております」
■■
「禅師殿、お願いじゃ」
「これは政子様。何かこの静が」
 政子は舞の日の夕刻、密かに禅師のもとを尋ねて来た
のである。
「静殿の舞いを、今一度見せてはくださらぬか」
「政子様、それはお許しください。そんなことを繰り返
せば、頼朝様の怒りが増すばかりでございます」
「いや、そうではない。この政子の娘、大姫一人のため
に踊ってほしいのです」
「大姫様のため、一体何のためでございます」
「この子気鬱を晴らしてやりたいのじゃ。のう、禅師殿
も母親ならば、おわかりであろう。娘を思う親の気持ちが」
 結局、大姫一人のために、静は政子の別棟で舞うこと
になった。
「しずやしず、しずのおだまき繰り返し…」
 その静の踊りを見て、大姫は泣き崩れたのである。静
はすぐさま大姫の前に跪いていた。
「静、それ以上しゃべるでない」
禅師が止めた。
「いえ、言わせてください、お母様」
「よい。話されよ、静殿」
「私は頼朝の手にありましても、常に義経様と一緒なの
でございます。義経様と二度と会うことはできなくても、私はこれからの一生、義経様を愛し続けます」
「お前は何ということを」
禅師が絶句する。
「静殿」
かぼそい声で、大姫が初めて口を開いた。まだ13歳のあ
どけなさが残る。が、すでに婚約者を殺されている。心の傷は大きい。
「この世で、初めて、友を得たような気がします」
「ありがたい、お言葉でございます、大姫様、、、、」
 二人の女性は、お互いに手を取り合って、泣き崩れる。
 そばにいる二人の母親も、その光景を目にして、しばし言葉がでない。やがて政子が口を開いた。表情が変わっている。
「禅師殿、私は心を決めました」
「はい」
「この政子がお約束いたしましょう。必ずや、静の子供
を助けると」
「政子様、そのお言葉、ありがとうござります。力強ご
ざいます」
禅師は「京都」ばかりでなく、「鎌倉」も手に入れてい
た。
(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
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