yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

■ロボサムライ駆ける■第二章 新東京(2)

■ロボサムライ駆ける■ (93年同人誌発表原稿)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
(1)承前
「あれ、旦那、そんなこといって、あとでマリアねえ
さんが怒ったってしりあせんぜ」
主水は鉄の言葉を無視してしゃべる。
「これからの道行きだともうしたな。私がどこかへで
かけるというのか。また、そのことなぜ、知っている

「これはしもうたわ。貴様、まだ、聞いてはおらなん
だか」
 サイ魚法師は、顔をくしゃっとした表情にして、自
分の頭をつるりとなでた。
 さては…、主水は思いつくことがあった。
「さては、法師、ロセンデールに雇われたか。貴様日本人であ
りながら、外国人に魂を売ったか」
 どうやら、当たりらしい。サイ魚法師が答える。
「ふふん、主水、何をアナクロニズムな言葉を吐くん
だ、お主はいまごろ国籍にとらわれることなどあるま
い。だいたい、ロボットに魂などないわ。お前はロボ
ットだ。どうあがいたところで、日本人になることな
どできまい。お前自身が日本人というよりも、徳川公
国の使い番だからな。主水、そろそろとどめをさして
あげようぞ」
 
 サイ魚法師が、潜水艦のブリッジから身を乗り出し
て怒鳴っていた。
「鉄、マリアをたのむ」
「だんな、どこへ」
「ちょっと一仕事だ」
 軽く言う。
「主水、大丈夫ですか」
「マリア、心配無用」
 主水は、愛剣ムラマサを上段に構える。
 その瞬間、再びサイボーグ魚が、主水めがけて、水
面から発進した。そのとき、主水は上空へ跳躍する。
 わずか数センチしたの足元を、サイ魚の大群が飛び
過ぎる。
 そのサイ魚の群れを、板を踏むのように足で踏み付
け、飛び石のように潜水艦になだれ込む主水だった。
 人間の目にとまらない技。さすが徳川公直属旗本ロ
ボザムライである。ブリッジに主水はいた。刀を構え
る。
「サイ魚法師、かくご」
 驚くサイ魚法師。
「まて、主水」
 サイ魚法師はもう逃げ場がない。

 名刀ムラマサが潜水艦「越月(えっきょう)」の艦
橋を切り抜く。音立てて、船橋の右肩が少しずつ倒れ
ていく。その切片がずぶずぶと海中に沈む。
「うわっ、やめんか、主水」
 サイ魚法師は、船橋内部の階段を転がり降りる。
「おしい」
 にやりと笑う主水。まだだいぶ余裕がある。
 ムラマサは、すでに艦橋上四分の一を切り離してい
た。
「さすが、殿から拝諒いたした刀ムラマサ。すごい切
れ味じゃ」
 逃げ出そうとする潜水艦。
「逃げるな、法師」
 続いて艦橋から外側に飛び降りながら、船体横に着
地するまで、主水はムラマサを数百回横に払い続ける。
 次々、艦橋金属部分がササラカマボコのように切り
離されていく。
「やめろ、主水」法師は泣き声をあげる。
「降参する。後生だ、やめてくれ」
「ならぬ、攻撃を仕掛けたのはお前だろう。この潜水
艦、切り刻み、東京湾のサイ魚のエサにしてくれるわ

「みな逃げろ。主水め。やりよった。一人でこの潜水
艦を切り刻むつもりだ」
 サイ魚法師が、潜水艦の乗員に警告を与えていた。

まさにクモの子を散らすようにハッチから乗組員が飛
び出して来る。
 遠く川船の上で、主水の様子を見ているマリアと鉄
がしゃべっていた。
「大丈夫ですかね」
「どちらが、主水、それともサイ魚法師さん?」
「ねえさんも人が悪いや。サイ魚法師に決まっている
じゃありませんか。だんなも刀を使い始めると見境が
ないからなあ。キジルシだからなあ」
 腕組みをして観戦している鉄が言う。
「ふふん、あたしもそう思います。サイ魚法師も時期
を選ばなきゃいけませんよね」
「じゃなにですかい。だんなは今…」
「そうです。あの方は、いま気分が一番悪い時期なの
です」
 ロボットにもバイオリニズムがあるのである。
 サイ魚法師と逃げ出した潜水艦の乗組員は、ゴムボ
ートをサイ魚の大群に引かせて逃げて行く。
「あーあ、やっとあいつら、逃げよった。」
 主水は
泳ぎ、帰って来る。
「それで、鉄、どんな用だ」
 一仕事を終えた主水が、舟に戻ってきて尋ねる。

「そうだ、いけねえ、お上(かみ)がお呼びですぜ」
 急に鉄は思い出した。
「何、殿がお呼びだと、早くそれをいわんか」
 今度はも主水が大慌てである。何しろ、主君徳川公のお呼
びなのである。

(2)
 新東京で新しく建てられたランドマークがある。東
京城はその一つである。
 東京城城中。最上階、主上の間、広々とした六四畳
の広さである。主水は正装をして、徳川公の前に畏ま
っている。

 第二五代徳川公、徳川公廣。六七才。公家のような
温和な顔をしているが、歴代の徳川公の中で切れ者
言われている。この徳川公でなければ、東京島はでき
なかったろう。クールな頭脳が売り物である。特別製
の絹の着物を羽織っている。徳川家康そっくりの顔を
していたが、これはどうも整形ではないかという町の
噂である。

 この東京島の五分の一を占めるのが東京城である。
 一〇層だての建築物はバイオ木材で作られている。
このバイオ木材は特別製で季節、天候によって建物自
体の色彩が変化し、変幻自在だ。現在では、東京の観
光名物になっており、一部分は、観光客に解放されて
いる。最上階は関東新平野を見渡せる展望オフィス。
ここが主上の間である。

 徳川公はビジネスマンとしても優秀で、バイオ植物
産業、サイボーグ魚養殖、観光事業などいろんな方面
に手をだしていた。

「まずは一服、どうじゃ主水」
 二人の間に茶道具が並べられている。この時期でも
一緒に茶を飲むというのが心を開いているという証拠
になっていた。人間の徳川公とロボットの主水が同じ
茶を飲む。

「これは殿、恐悦至極に存じます」
「これは、私が作り上げた茶じゃ」
「う、うまい。乙な味。はて、この銘柄は何でござり
ますか」
「機械茶二八号鉄人じゃ。どうじゃ主水、味は。日本
精神がよ〜く馴染んでおろうが」
「ははっ、なにか夜の空を見ると、ガオーッとほえた
くなります」

 この機械茶の栽培も、徳川公は手掛けていた。新静
岡に広大な茶畑を持っているという。ロボット用の茶
であるが、人間も飲める。ロボットは、この茶を飲む
ことで落ち着くことができるのだった。ICに微妙に
影響を与えるらしい。

「ははっ、五体臓腑に日本精神が染み入りましてござ
います。で、殿、今度の御用の向きは」
 しっとりとした茶が、主水の体の細部に染み渡って
行く。
「そうじゃ、その珍しい茶を飲ましたのは他でもない
。お前に、西日本へ下ってほしいのじゃ」
 クールな顔で徳川公は命令する。

「と、申しますと、何やらよからぬ企みが、またぞろ
首をもたげてまいりましたか」
「ロセンデール卿を知っておるか」
「ははぁ、ヨーロッパで会っております…」
主水は言葉を濁した。これはこの茶のせいではない。すくなか
らぬ因縁が、二人の間にあるのだ。むろん、それは徳
川公も承知のことだ。

 「あやつが、どうやら、日本を狙っておる。卿の自
家用空母『ライオン』が、世界一周を計画し、今は『
大阪港』に停泊しておる」
「大阪ですと。では西日本で何か活動を……」
「あやつらは、大阪に機械城なる前進基地を建設しよったの
じゃ」
「で、そやつらの狙いは、おそらく…」

 主水はロセンデールの狙いに気付く。主水の眉が吊
り上がっていた。その表情に徳川公はきずく。
「余もそう思う。奴らの狙いは京都にのぼり、日本の
心柱(しんばしら)を発見し、この日本を領土にした
いと考えておるのじゃ。西日本に走れ、主水」
「は、いますぐにでも」
 走る姿勢を取る主水である。昔なつかしいエイトマ
ン姿勢であった。BGMが聞こえてくるようだった。

「慌てるな、主水。ところで、貴公、その姿勢は何じ
ゃ」
「はっ、わからないのですが、走れといわれますと、
ついこの恰好をとります」
 過去のロボットの記憶がICに詰め込まれているら
しい。

「まあ、走れと申しても、本当に走らぬでもよい。西
日本で一週間後、都市連合会議が開かれる。そこに東
日本エリア代表としての霊能師『落合レイモン』が遣
わされる。この『レイモン』の使いとして紛れ込め。
ともかくあのちでは、ロボットは、奴隷じゃからのう

しばらくして徳川公はつけつわえた。

「そうじゃ、足毛布博士に会ってきたらどうじゃ」
 ぐっと睨む徳川公。
「おかみ、それは、どうも」
 続く言葉が主水を驚かせる。
「いや、どうも足毛布博士、ロセンデールと結びつい
ているやもしれん」

「まさか、そのような可能性が…」
 呆然とする主水。
「残念じゃが、可能性はある」
 徳川公は、東日本都市連合の副議長を努めている。
この議会で落合レイモンの派遣が決まっていた。また
、西日本の動きにも、目をつけている。東日本と西日
本はいわば微妙な敵対関係にある。
「レイモンと申しますと、あの薬(やく)づけのレイ
モンでございますか」
 突然に出て来た名前に心を動かされた。
「そうじゃ、いかに薬づけであろうと、レイモンが東
日本エリアでは、最大の霊能師であることは間違いあ
るまい」
「それはたしかに……」

 『薬づけ』の意味は、落合レイモンはもともと体が
丈夫ではなかったらしい。幼いころレンモンは、生体
防護チューブにいた時、何かの霊に取り付かれて霊能
師となった。体を保つために一日に百種類の薬品が必
要と言われている。

「主水、お前はこのあと、落合レイモンのところへ行
き、今度の主なる目的を尋ねよ」
「それでは、御主上も今回のレイモン様の旅の目的を
はっきりとは」
「わからぬ。落合レイモンは、東日本都市連合では顔
が効く。それゆえの派遣じゃ。が、お前も存じておろ
うが、余は霊能師をこころよく思ってはおらん。が、
あやつらの助けがなければ、この日本を救うことなど
不可能じゃ」
「一体、いつの時代から、あやつら、霊能師が力を持
つようになったのでしょうか」
「余が父君より聴いたところによると、やはりあの霊
戦争のあとと聴いておる」

 霊戦争後、霊能師がこの世界で大きな役割をしめる
ようになつたのは、彼らが非生物、生物をとわず、そ
の物体の『声』を聞けるからだとされている。あちこ
ちにしゃべる霊が数多く出現している世界なのである

。徳川公は急に話題を変えた。
「それで、病気はどうじゃ」
「えっ、なぜ、お上がそれを……」
 突然の質問に、主水はあわてた。が、それは主水の
勘違いであった。

「何をいっておる。マリアの例の病気のことではない
か。ほら、あの姉のパーソナリティがでるのではない
かと尋ねておるのじゃ」
「さようでございますか。拙者てっきり……」
 安心する主水。
「何か、お前、病気なのか」
 不審な顔で主水の顔をのぞき込む徳川公である。
「いえ、まさか、そのようなこと、この私に」
 心の中で冷や汗がでる主水である。本当は、主水には最近
ある病状がでていた。その表情に気付かず徳川公は、
「それならよいが。まあマリアにも気をつけてあげよ
。ともかくたったひとりの姉がのう……」
 その姉がロセンデールと深い関係にあるとは、徳川
公は知らなかった。
 主水は東京城を辞した。

■ロボサムライ駆ける■ (93年同人誌発表原稿)
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