yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

■ロボサムライ駆ける■第三章 霊能師(4&5)

■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://w3.poporo.ne.jp/~manga/pages/
■第三章 霊能師(4&5)

■第三章 霊能師(4)
 急ぎ逃げ帰るロボ忍者の一団の前に。
 黒い影が立っていた。
「お頭」一団の誰かが叫んでいた。
 逃げ来るロボ忍の前に一人の男が立ち塞がっるように。怒っているのた。
 全員がおぞけを奮う。
 その男の前に立ち止まり、膝を屈する。
 やがて、その男がゆっきりと口を開く。
「お前たち、早乙女主水とかいう侍ロボットに負けて、しっぽを巻いて逃げてきよったか」 怒りを含んだ声が、彼らの聴覚器に響く。「お頭、申し訳ございません。あやつ思ったより、強く」
 先刻のリーダー格の男がしぶしぶしゃべった。かぶせるように、
「ええい、聞きとうない。主水など、たかが東京城の護衛ロボット。それに比して、我々はロボ忍、伝統ある特殊技能ロボットぞ。よいか、あやつ、今度会いし時、必ずや、血祭りにあげい」
 覆面で見えぬが頭と呼ばれた男の怒りは相当のものらしい。
「わかり申した」
 全員が口を揃える。
「それでじゃ、ロッカン」
 先頭の男に言う。
「はい、お頭」
「おまえは、負けた責任を取れい、死ねや」「おまちください、今一度の機会をあたえてください。今度は……」
「ええい、くだらぬ言い訳など聞きとうないわい」
 その男が光りに包まれる。
「ぐえーっ」
 ロッカンは倒れていた。
「よいか、みせしめじゃ」
「わ…わかりもうした」
 ロボ忍の体が、小刻みに震えている。
 残りの全員が恐れていた。声は小さいが、唱和していた。
「ところで、お頭はどちらへ」
 ようやく、一人が尋ねた。
「水野さまよりの密命じゃ。依頼されて東京城へな」
「東京城でございますか」
 奇異な感じがした。
「そうじゃ、まあ、見ておれ、わしの腕をな。お前たちは、落合レイモンの一行を見張りながら、西日本にかえれ」
 ロボ忍者群は、花村とロッカンの死体を残して走り去った。
(頭もむごいのう)
 これが、彼らの思いであった。

■第三章 霊能師(5)
 東日本と西日本を分けている部分は、関ヶ原である。
 霊戦争後、東日本も西日本も地形が変化したが、昔の関ヶ原あたりに電磁ベルトが十メートル幅で、日本を分断していた。
 国境ラインに張り巡らされている電磁バリアに加えて、西日本側の前には球形の飾りが数万飾られていた。それが陽光を浴びてにぶく光っている。
 その光の元は、東日本へ逃亡をはかったロボットの頭であった。
 その霧のかかる国境線に、三人のロボットがこっそりと蠢いていた。
 あたりを見回す。
「あんた、大丈夫かい」
 幼い子供ロボットを抱いている母親が、父親のロボットに尋ねた。
 三人ともぼろぼろの風体である。逃亡ロボットである。
「ここまで、無事にこられたのだ。問題はない」
 皆を安心させようと父親は言う。
「でもさ、あのみせしめのロボットの頭ぞろえが不気味だよ」
 母親は、死のあぎとである国境境界線を、首を見た。
「何言ってるんだ。いいかい、何度も話し合ったじゃないか。東日本へ入れば、専門職ロボットには、いくらだって仕事があるんだ。いい暮らしができる」
 希望の気持ちを込めて、父親は励まそうとした。せっかくここまで来たのだ。これまでの苦労が、彼の頭の中で、目覚ましく思い出されて来る。
「本当だね。そうなれば、この子供も人権を認められるという訳だね」
 母親が付け加えて言った。気分を変えようとした。が、
「そうはいかぬが花よ」
 上空から、誰かの言葉が聞こえて来る。
「誰だい」
 二人はゆっくりと回りを見渡す。声が変わっていた。
「ここは地獄の一丁目よ。よくここまでたどり着いた。誉めてやろう」
 三人の前にロボ忍が数名飛び降りて来る。回りを取り囲んでいた。
「逃がしておくれよ。あんたらもロボットじゃないか」
 哀れをもよおす言葉である。
「くくっ、同じロボットだから、逃がすことかなわぬ夢としれい」
「お金なら差し上げますよ」
 父親は卑屈になっている。
「金なんぞ、何の役に立とう」
「よいか。ロボットの法律。足毛布博士の法則を知っておろう」
「へん、何をいってるんだ。その足毛布だって自分の作ったロボットに逃げられたじゃないか。私ら庶民だって真相を知っているんだよ」
 強気になつて母親が言い返した。
「ふふっ、それを知っているなら、なおのこと生かしてはおけないのう」
「止めてくれ」
 父親がしゃがみこむ。
「せ、せめて、この子供だけでも……」
 母親が泣きをいれる。
「できぬ相談。ロボットの電磁記憶は永久に消えぬ事を知っておろうが」
「やれ」
「あなたら、人間じゃないよ」
 つい母親が、やけくそに叫び声をあげていた。生きる望みが断たれたのである。
「そうじゃ。それゆえロボ忍者じゃ」
 憎々しげにロボ忍は言い、殺戮の喜びに打ち震える。
 三人の回りに一陣のつむじ風が起こった。口をパクパクさせている首が三個残っている。離れたところに胴体がバタバタ動いている。「新しい首の組み合わせ、面白かろう」
「ロボットに対するよき教訓となろう」
「ふははは」
 ロボット忍者にとつてこのような事は朝飯前なのだ。
 笑い声を残し、ロボ忍たちは去って行った。首だけになったロボットには、まだ命の残滓が宿っている。
「あ……、あんた……、まだ意識があるかい……」
 母親のロボットがかすれた声で尋ねる。
「ああ……」
「こ……こんな世の中……、潰れればよいのに……」
「つ……潰れるよ……、絶対にな……」
 声がだんだん小さくなって行く。
 ロボットの生命液が頭部から少しずつ流れ出て行った。
 一陣の風が、彼らの生命を連れ去っていた。

(続く)
■ロボサムライ駆ける■
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