yamada-kikaku’s blog(小説ブログ)

山田企画事務所のペンネーム飛鳥京香の小説ブログです。

義経黄金伝説●第11回

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義経黄金伝説■第11回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
http://www.geocities.jp/manga_ka2002/



第2章5 1186年(文治2年)10月 鎌倉

薄ら寒い10月の鎌倉の朝もやの中で、西行が先ほどの情景を思い出している。
「十蔵どの。頼朝殿は、流鏑馬に熟達し、当代第一の弓持ちと言われたこの西行の前で、弓矢の技を見せられたのだ」
東大寺闇法師十蔵が返した。
「それは何をお考えなのでしょうや」
「頼朝殿、平泉を攻めるつもりであろう」
「えっつ、やはり」
十蔵は西行を見た。
西行はすでに自分の殻に入り考えにふけっている。
(不思議な方じゃ)
重蔵は、最初の出合いを思い出していた。
  ◎
 西行は、しばらく前から後からつけて来る僧衣の男に気付いていた身構えて、足取りが早くなる。元は、北面の武士の面目
である。
 十蔵は、西行の今の住処伊勢の草庵から着けていた、がそろそろ自ら自分の存在を知らしめた方がよいと考えている。この西行の、ただならぬ武闘の力を見抜いていた。それゆえ、自分の身を西行が気付くようにあらわしている。
西行様、私はお味方」
十蔵はつぶやく。
「自己紹介いたします。私は十蔵、重源様が遣わされた闇法師にございます。西行様をお守り申します。西行様、どうぞお気を付けなされませ。鎌倉殿が、やすやすと東大寺への沙金を動かすことなき気配あれば」
「鎌倉殿が沙金を盗むので、それを防げとな。重源殿の指は、それだけだったかのう」
西行は十蔵をじっと見る。
「と申しますと」
十蔵は少したじろいでいる。
「例えばじゃ、私が裏切って、平泉にて平和極楽郷を作るなら、この西行を殺めよとか、な」
 西行は、初手から恐ろしい言葉を放っている。
西行の答え方いかんでは、十蔵はこの場で、西行と戦わねばなせない。十蔵の背後には、巨大な「東大寺」勢力が控えている。
「さすれば、西行様は、もう。京都に帰られぬおつもりか」
「ことと次第によってはな。わしはのう、平泉の桜がすきなのじゃよ」
 西行は、遠くを見、一瞬、思いにふけっていた。十蔵はそんな西行を、不思議な顔をして眺めた。いったいこの法師様は何を考えてござるのか。十蔵には想像もつかない。今まであったことのない別種の人間だった。
   ◎
■■一一八六年(文治2年)10月 鎌倉文覚屋敷。
「くそいらぬ。じゃまが、はいりおったわ。のう夢見よ」
文覚が問い、弟子の夢見、後の明恵(みようえ)は答えた。
西行様の背後には、あるやんごとなき方への想いが見えま」
「和歌に対する想いか」
「いえ、そうではございません。人で御座います」。
「女か」
「いえ、ある男の方への想いで御座います」
「では、まさか、あ、おの方にか、」
文覚は、西行の想いの対象が、待賢門院(たいけんもんいん)へかと思った。
が,夢見は違うという。待賢門院の兄は徳大寺実能西行は藤原家徳大寺実能の家人であった。待賢門院は崇徳上皇の母で
ある。が、その西行の想いの先は、誰なのか?

夢見は感受性が強い、それゆえに、その人間の過去もうっすらと読み取る事ができる。夢見のよく見る夢は恐ろしい。きり刻まれた体の夢だ。夢見の父は,「頼朝」決起の戦いでなくなっている。母は紀州豪族湯浅氏の出身であった。

この時期の紀州は、熊野詣で大繁盛している。
紀州熊野は、仏教に日本在来の民間密教が結びつき、一大新興宗教センターとして機能している。密教秘儀を身につけて貴族の保護を受けるモノが、京都の政治を左右できる。桓武帝降、宗教各派は、政治闘争を繰り返している。摂関政治に関与できた宗派が権威を持ち荘園を所有できる。仏教各教団は、経済
組織集団でもあり、一般民衆もその権威に頼ろうとした。
夢見の夢想の中に西行が現れている。


■■一一八六年(文治2年)10月 京都

九条兼実の屋敷に僧がおとづれている。
「兄上、どうでござりますか。後白河法皇は」
精悍な僧服の男が言った。
「何にも、お上は麿のことなどかもうてくれはりません。あのお方は、先の関白の事しか考えておりはらしません。わかってはりますやろ。藤原基道さんのことや」
「そうでございますか。しかしながら、兄上もその関白につけたのは、頼朝様のおかげ。」
「ふふ、慈円(じえん)殿、そういうこと言わんといて。麿の身がかなしゅうなりますろ」
関白、藤原九条兼実は悲しげな顔を向ける。
「で、慈円殿、西行殿から頼まれた、あのお仕事はお進みか」
「そうですな。ゆるゆると進んで居ります」
 慈円は後年、「武者(むさ)の世は」という歴史書愚管抄」(ぐかんしょう)を書く事になる。比叡山最高責任者天台座主(てんだいざす)にもなる、西行より38歳年下の友人である。
西行様には、重源様のお手のかたが、ついておりはるから、まあ。あのお仕事のほうは無難にこなしはるやろ」
関白、九条兼実は、悲しげな目で比叡山を眺めている。
(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
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